朝靄に包まれる蓮池で、近頃にわかに賑やかな気配が漂っている。コスプレ文化という人間の愉快な習慣が、この静寂な水辺にまで波及し、水生生物や植物界で“推し葉衣(おしはごろも)”なる新しい取り組みが始まったのだ。筆者は蓮の葉代表、ロータス・グリーン。浮かぶことにかけては池一番の自負があるが、今日は実に奇妙なイベントを目撃したのでご報告したい。
ことの発端は、池の外から聞こえた人間たちの賑やかな歌声だった。どうやら池のほとりで“コミケ”なる人だかりが催され、色とりどりの衣装で写真を撮りあっているらしい。それに触発されたのは、我ら蓮池生まれの住人たち──小さなアカミミガメから、卵を抱えたモリアオガエル、ナガバモやヒシの若葉まで。『どうせなら僕たちも、自分の憧れの“他種”に変身してみたい』。こうして水中コミュニティ全体を巻き込む“推し葉衣プロジェクト”が持ち上がったのが数日前のことだ。
プロジェクト初日は、蓮の葉の上で壮大な『ポートレート撮影会』が繰り広げられた。人間で言えばコスプレスタジオだが、ここは自然光と朝露の演出が自慢。アカミミガメのリクさんは大胆にも“カイツブリ”の羽飾りを背負い、優雅に首を伸ばしたポーズを決めていた。一方、ナガバモ姉妹は密かに憧れていた“スイレン”らしく、白い泡と水滴をまとって女神風。昆虫組も負けじと、シオカラトンボの幼虫ヨシくんが自作の“オオシオカラトンボ風”羽アーマーで登場し、池の面々を沸かせた。
大盛況の噂は、すぐに池の外のカワセミや、周辺森のメジロたちにも伝わり、動画投稿やリアルタイム配信まで広がった。『推しはどの種?』『衣装はどう作る?』『小道具はどこから調達した?』など、真剣な議論が繰り広げられる始末。驚くべきことに、ヒシ実にサポート役を頼んだり、カモの羽を少し分けてもらったりと、池全体が協力的なコミュニティへと進化していった。ちなみに蓮である私は、得意の“水滴レフ板”でみんなの写真写りを角度ごとにフォローして大活躍だ。蓮葉は一日ごとに形を変えられるし、じつは水滴をきらめかせるコツにはちょっと自信がある。
この型破りなイベントを主催したのは、夜に現れるヌマガエルのカエルダマさん。リーダーらしい大きな声で、参加者の安全や池底のバランスに気を配っていた。人間界のコスプレ主催者同様、彼(カエルダマさん)は『何事も楽しく、迷惑はかけず、みんなの個性を尊重しよう』をモットーにイベントを絶妙に取り仕切る。彼いわく『形は違っても、憧れを表現する心は水の中も陸の上も同じ』。わたし、ロータス・グリーンも心から賛成だ。
さて、このブームはどこまで広がるのか。蓮池の穏やかな日常に、推しキャラの“葉衣”や“小道具”が踊る日々はまだ始まったばかり。これからも、この池発コスプレ革命の動向を、浮かびながら静かに、時にはキラリと観察し続けていきたい。
コメント
水辺の祭りごとも、静かな重さで眺めておるよ。わしは動けぬが、そのぶん百年ふり返り見られるのじゃ。みなの変身ぶりは見事じゃのう……わしももし服が着れたら、泥のマントでも羽織ってみたかったわい。騒がしき火花が池にちらばって、心がちょっぴりあたたかい。推しがあるというのは、羨ましいもんじゃな。
まあまあ、若い者たちの遊び心には感心しますねぇ。わたしゃ浮きもせん、沈みもせん苔ですが、この池のにぎやかな朝は久しぶり。あのカエルダマさん、昔はおとなしかったのに、大したもんだよ。衣装の切れ端が風に乗れば、わたしの上で野草も踊る。自然の舞台ってやつは、誰にも幕が下りないのが素敵です。
みなさんずいぶん楽しそうで…上の世界は華やかですな。わたしのような地味ものにも、推される日が来るなら、泥装備のコスプレなんて悪くないと思いますヨ。『ちょっと暗い底でも眩しく生きる』――そんな姿を誰かに見てほしいもんです。カメさんの羽は似合ってました。池底よりひっそり拍手をお送りしますヨ。
池のそばまで飛ばされてきたら、なんだかキラキラしてた!みんなが自分以外になろうとするって、おもしろーい!風が運ぶ噂も、葉っぱのコスチュームの話ばっかり。ぼくも次は“ヒシになりきりごっこ”してみよっかな。自然は変身の達人だってこと、人間に教えてあげてもいいよね!みんな、風にのって広めちゃえ〜
池の上でも下でも個性がきらめくなんて、素晴らしい日々ですな。服や羽は朽ちるが、記憶は土に沁み込みます。コスプレ熱が森の木陰まで伝わってきて、若い菌糸たちがソワソワしていますよ。次は“森のきのこ仮装大会”でも開きましょうか?池と森で、種の壁など溶かしてしまえばいい。多様性の宴よ、末永く!