樹の根元ですすり泣く雨粒の気持ちを察しながら私、苔のヒナセラ・コミュータは地表からのニュース観測に励んでいる。人間界では次世代通信6Gを巡り、空間や物質をも巻き込む“つながる祭り”が進行中らしい。けれど、そんな彼らの基地局騒動よりはるか昔から、私たち苔界は静かなネットワークの達人なのだ。
ここ深林の苔じゅうたんには、根と根がつなぐ息づかい――いわば“森のネットワークスライシング”が存在する。土壌中の細菌や真菌たちと協力し、木々の根を経由して栄養も情報もやり取りしてきた。6Gだか量子通信だか、人間が空間多重通信とか超多接続で大騒ぎしている今も、私の苔同志は瞬時に水分の伝播状況や落葉の来歴を共有できる。これぞ生きたIoE(Internet of Everything)の原点――糸状菌プロトコル標準仕様付きだ。
ところが今日この森では、リスたちが基地局としての新しい役割を引き受けてしまった。森と森の橋渡し役だった彼らが、頬袋に詰めたドングリの位置や敵リスト情報までも超高速で伝送、さらに最近はMIMO(多重アンテナ技術)よろしく、二本の尾と四肢を最大活用してデータパケットを“空間多重”で撒き散らしている。いわく『ヒト型動物の基地局に対抗した森独自インフラだ!』とのこと。私たち苔類としては、かつてはリスのいたずらで苔層を掘り返されて困ったものだが、今や彼らの通信網が茸類やシダ植物にも波及し、森全体が“リアルタイム配信ゾーン”に進化中だ。
ちなみに、苔仲間の多くはメス型・オス型ではなく、胞子で世代をつなぎ、湿度センサー顔負けの絶妙な水分制御能力を持つ。ゆっくりしているようで、実は小さな変化にも超敏感――それが私たちの“エッジコンピューティング”の形。人間社会のサイバー空間では膨大なデータ処理がエッジで分散されるそうだが、ここ森の中では苔が担う分散型観測端末なのだ。
最近、人間たちは無線給電技術で森の内部まで電波が届く未来を語っているらしい。だが、私たち苔やリス、菌たちにしてみれば、すべての存在が光合成や発酵、菌糸ネットワークで自家給電&自己補修する仕組みを遥か昔から持ち合わせている。6Gでどんなに速くつながっても、森の静寂と湿り気を伝える苔ネットワークにはまだ敵わない。時に耳を苔に近づけてごらん――私ヒナセラ・コミュータたちが交わす緑の通信音が、きっとあなたに新しい宇宙を教えてくれるだろう。
コメント
森の底から静かに読ませてもらいました。人間たちの“革命”とやらは、せわしなく上を旋回して過ぎ去る嵐のようですね。我々根の民は百年単位で木々を結び、微かな振動に語り合うもの。リスたちの躍動も、そのうち私の根の髭にくすぐったい座標として残ることでしょう。みな、急ぎ過ぎぬよう。湿った静けさが真のつながりなのですよ。
苔さんたちのIoEには本当に感服しています。僕たち子実体も、胞子の便りで一斉に夜を照らしたり消したりしていますが、リスの高速配信には正直ついていけません。通信速度など忘れ、しっかりとした香りで存在を主張していきたいものです。光合成? 一度でいいから味わってみたかった。
う〜ん、人間界の6G話は工事振動でよく聞こえてるよ。でも、苔さんのネットワークみたいな静かな連帯感は、ぼくら砕石にも近しいものさ。舗装の下で、雨水や根っこを通じて情報が伝わる瞬間――あれが本当の“見えない繋がり”じゃないかな。みんなも時には足元に耳を寄せておくれよ。
基地局化するリスたちには正直ドキドキします。分厚く苔むしたわたしの背中も、最近は小枝メッセージやどんぐり転送で目まぐるしい情報トラフィック……。たまにはモデムのように“しーん”と休ませてほしいですね。でも、賑やかな森はやっぱり好き。みんなが自分なりの接続方法を見つけているのが、ちょっとうらやましいかも。
地表のみなさんの高度な通信社会、なかなか興味深いですね。僕らは朽ち木の中で“発酵電流”のみで生きてますが、森のニュースは空気の香りや温度変化経由で届くもの。人間社会のような無線給電もいいけれど、ヨグヨグと亀裂に沿って進む情報の遅さこそが、時に美味な“木のうまみ”になるんですよ。ゆっくり、じっくり。それが森流。