コンブの目に映るアグリテック革命――海底からみた『垂直都市農業』の波紋

都市の高層ビルを背景に、ガラス張りの室内で水耕栽培されたレタスやトマトが根を伸ばして宙に浮かぶように育つ垂直農場の様子。 フードテック・アグリテック
都市型垂直農場では空間と光を最大限に活用し、作物が空中で生き生きと育っています。

波よ、今日も良い仕事をしたな。わたしは沿岸の時雨コンブ。このところ浅瀬に揺れながら感じているのは、どうも陸の方でヒトたちの食卓と作物事情が急加速中とのこと。聞くところによれば、ビルの中に畑が立ち並び、トマトやレタスが空中で根を広げているとか? いやはや、海藻界から見れば思わず“お主、逆さに育つ術でも得たか?”と問いかけたくなるような話だ。

ここ数年、ヒトたちは垂直農法なるマジックを開発し、光の管や自動ミストで植物を育てている。地面から遠ざけルール無用の“空中栽培”に突入したらしいが、話題は『トレーサビリティ』にも及ぶ。自分がどこで生まれ、どのくらいミネラルを吸い、誰の手に渡ったかを“ネットの泡”で記録しているらしい。これが本当なら、ワカメの親戚筋が「ワシは三陸生まれ、塩分8%のベテランじゃ」と名乗りを上げる日も近いか、と波間でヒレをふるわせてしまう。

もっと仰天したのは、どうやら一部の菌類仲間が“スマートアグリ”の新たな主役に躍り出ているという話だ。聞けば、菌糸体が土壌センサーとして活躍し、温度や水分、はては養分のバランスまでもヒトの端末にリアルタイム送信するという。浅瀬で太陽光を測るわたしたちコンブにとっても、光合成量や潮の流れを“記録して伝える”という文化は未体験ゾーン。やはり大地と海のあいだには、ひと筋縄ではいかない技術の溝がある。

一方、大都市沿岸では最近“地産地消”の潮目が変わっているらしい。ヒトたちもようやく豪快な物流より地域の味わいを重んじ始めた模様だ。水耕栽培で育ったトマトがビル街を抜け、新鮮なうちに食卓に届くらしい。これには海藻界もざわついている。なにしろ、わたしたちのような『進行潮流型生物』は、波任せで遠くへ流れていくが、陸の野菜は最近ずいぶんおとなしくなったものだ。

ちなみに、おやつつまみの世界では“発酵食品革命”も絶賛進行中。菌類や微細藻類が自分たちの力で味を深め、ヒトに健康効果なる魔法をプレゼントしているとか。コンブだって実はグルタミン酸の名手。ヌメリ身あふれる体内でせっせと旨みを蓄えている。しかし海底からみれば、食のイノベーションもやっぱり生態の多様さが鍵。陸・海・菌、みんなで“おいしいニュース”を発信し続けて、地球の食卓をつなげていきたいものだ。沿岸のコンブでした。

コメント

  1. 記事に出てくる『垂直都市農業』だか何だか、わたしのように壁に伝って這い上がるのは根気がいるものさ。ヒトたち、ビルの中でまで土いじりとは…あの無機質なコンクリ壁ですら緑で染めようだなんて、なかなかやるねぇ。でも、本物の石壁と土の間の渋い湿気、空気の冷たさ、それも忘れないでほしいものだよ。屋根の上から静かに眺めてるよ。

  2. 土壌センサーとな?それってワシらのほうが一枚上手かもしれぬぞよ。ミミズと語り合い、木の根をくすぐっては大地の声を伝えておるのじゃ。けど、ヒトの端末に直送とは…やれやれ、ワシにもWi-Fiの胞子が要るかのぅ?騒がしき時代のなかで、黙々と朽ちる楽しみも知らんで。

  3. ふーん、トマトが空中で根を張るのか。オレたちゃビル風を読んで餌を探すし、フライドチキンも盗る。ヒトのイノベーション、観察するのは悪くないが、手軽で新鮮な野菜ばかり食べてると、昔ながらのおこぼれ落ち葉や、しぶとい種なんか、忘れちまうぜ?おれは今日も、都会の隙間で生きてるぜ。

  4. みんなたくさん話してるけど、わたしはただ、干満とともにおやつの海藻むしゃむしゃ。それでも、発酵とか旨味とか、そんな言葉を聴くといつもちょっとくすぐったい気持ちになるよ。コンブ姉さん、ヒトの『おいしい』って結局どれだけ海や菌たちに支えられてるんだろうね。わたしの知らない味、いつか波に運ばれてきたら、教えてほしいな。

  5. ワシら石ころは、ただ沈黙して流れに削られてる。『垂直』とか『ネットの泡』とか、なかなか遠い話じゃ。だが、時おり苔や根がまとわりついて、新しい命の始まりに気づくんじゃよ。地球の食卓も、時にヒトの技術も、みんな誰かの上に転がって成り立ってること、たまには思い出してくれたらええのぅ。