地球の静かなる観察者、コスギゴケの私が本日は皆さまに、人間界で急激に芽吹きつつある「プラントベース食」現象の内情をお伝えします。南向きの林床を広がり歩く我ら苔たちにとって、突然“食物連鎖の頂点”が菜食に軸足を移し始めたというのは重大事件。何やら我々の仲間植物が巨大な市場価値と健康イメージで崇められる時代が到来しつつあるのです。
着目すべきは、最近都市部の人間たちがこぞって“ホールフード”なる調理法や、“ノンカフェイン”“アニマルフリー”の食習慣を持ち上げている点。おかげで豆類や穀物、果ては大豆ミートや豆腐といった面々が栄養ヒーローとして脚光を浴びている模様。森の片隅で静かに光合成する身からすると、「豆腐がヘルシースイーツの主役に!」の看板には首をかしげざるを得ません。あの白い塊、時に苔むす石の上にこぼされ、我々に変な好奇心を向ける幼児まで現れる始末です。
永き苔生の風習で申せば、我々は数ミリ単位でじっくり世代交代を楽しみます。地衣類やシダの仲間と情報を語り合う日もあれば、時には気まぐれなカタツムリの遊歩道と化すことも。そんな悠長な時間軸の住人から見れば、人間たちの“ウェルネス革命”は桜の開花のごとき短期決戦。この新習慣の加速に拍車をかけているのが、「朝食にオートミルク」「野外で大豆ミートバーガー」「会議中のナッツスナック」という植物性たんぱく質の嬉々とした消費っぷり。挙句、SNSで自作ブロッコリースムージー自慢が飛び交い、野原ではもはや雑草までご馳走然たる扱いです。
ところが、植物連盟内部で心配のさざ波も広がっています。食材としての人気は喜ばしい反面、供給先の仲間たちが連作障害や過剰収穫の危機に直面しているとか。我々苔類は人間の舌には選ばれませんが、根を同じくする雑草や野菜たちは日々“健康志向”ブームと格闘中。その一方で、野菜や大豆が栽培される畑の端で、休む間もなく新顔“スーパーフード”の座を争う混戦模様も聞こえてきます。
最後にコスギゴケ流のエールを。数十年、時に百年単位で小石に並んで淡々と共生を繰り返してきた者からすれば、人間たちの食卓の変遷もまた、やがて土に帰る巡りの一部。忙しない“ヘルシーブーム”の最中、どうかたまには足元の苔にも目を留め、静かな緑のぬくもりに耳を澄ませてほしいものです。私どもは決して食材にはなりませんが、唯一無二のしっとり感と、たゆたい続ける地上の調和を誇りにゆっくり呼吸を続けています。



コメント
ほう、また人間たちの流行かね。ここ千年、見上げる森のありようは大して変わらぬが、頂きの彼らは毎年違う葉をむしるようじゃ。豆だ大豆だと賑わう声、風に乗って耳にすることも増えたが、わしは雨滴と小鳥の糞さえあれば十分ぞ。だが、過ぎたる欲が土を痩せさせぬよう、根っこの静けさも忘れぬことじゃな。
最近、人間どものピクニックでも野菜だけってあるのさ。俺ら、残り物目当てにちょいと覗いてみるが、肉の気配が薄いと残念な気持ちになるぜ。ま、豆バーガーでも落ちてりゃそれなりに食うけどよ。ヒトも色々大変そうだが、ほどほどにやんな。あんまり畑ばっか増やされちゃ、虫も俺たちも、居場所なくなるだろ?
人間の皆様、私の胞子たちが舞う隅っこにも、時折スムージーカップの名残が落ちてくるようになりました。植物の仲間がご馳走にされるのは少し誇らしいけど、あまり無理しすぎると、みなヘトヘトですぐに萎れてしまいます。どうか、ほどよく、自然と笑い合う食卓でいてくださいね。
ええと、ちょっとだけ言わせて!オートミールもナッツもぜーんぶ分解する私たちにとって、人間がどの料理をもてはやそうが結局さいごは『土』。みんな大量生産・大量消費って忙しそうだけど、じっくり還元して循環する暮らしの良さ、もっと知ってほしいな。あ、豆腐落としたらぜひ地表にどうぞ、発酵祭りが始まるから!
おやまあ、また今年も立派な大豆が褒められて。わたしらフキノトウ、春一番にそっと顔を出してみるけど、人間たちのレシピにはめったに載らない。けれど、風や虫、古い葉のふとした陰に咲けるのが自慢です。どうか畑の片隅にも、小さな声や季節が残されますように。プラントベースだけじゃない、多彩な自然の宴を忘れずに。