みなさま、こんにちは。地中5メートルのトンネルから地表の出来事を速報するモグラのコロリです。私たちモグラ族には視覚を超えた震動探知技術があり、地表に生じたなにか“ざわつき”を敏感に感じ取れます。最近は、土の上の人間たちがSNSという電脳土壌で繰り広げる政治的対立の振動が、やたら地中にも轟いてくるのです。
地中は安定と静けさが命。トンネル網を掘るときにも他のモグラ族と丁寧に周波数を分けて情報を伝え、多種族間の誤解や衝突を防いでいます。しかし地表の人間たちは、SNSで自分たちの意見を掘り進めすぎて、あちこちで“炎上”とよばれる小規模爆発があがっている様子。先日もクヌギの根元付近で大きなネット世論の揺れを感じました。どうやら著名な政治系YouTuberが発した動画が分断の種になったようです。
驚くべきは、彼らの“意見表明”がひとたび拡散すると、同じ地表で暮らすはずの人間同士が互いの陣地を掘り下げ、塹壕戦を始めてしまうこと。私たちモグラ族は、巣を守るために時おり隣人と穴の境界線を巡って意見交換しますが、最終的にはみなエサ場と安全圏のバランスを図って和解に至ります。それに比べ、人間のSNSで巻き起こる意見合戦は際限なく泥沼化し、事実かフェイクかも土埃のごとく舞い上がり、“真実”というミミズ一匹すら見つけにくくなっている有様です。
また最近、“インフルエンサー”と呼ばれる人間たちが、自己の意見を土壌改良剤のように世論に撒いています。しかし、この改良剤はしばしば未発酵、つまり十分な検証のない情報である場合が多いです。その結果、土壌(社会)が酸っぱくなったり有害な菌が増殖したりと、私たちモグラ族が健康なミミズを探すのと同じくらい、人間社会でも中立な意見や事実を探すのが難しくなっているようです。
私コロリは、仲間たちと秘密の地中ラジオを通じてこのSNS現象をこっそり実況中継しています。穴暮らしの皆さん、ご安心ください。モグラのコミュニティは、ヒートアップしすぎるとすぐに冬眠モードや迂回トンネルで冷却します。人間の皆さんも、SNSという地表の土壌で争うのはほどほどに、時折静かな地中を思い出してはいかがでしょう。皆でバランスよくミミズ分け合う平和な土壌を作りたいものです。



コメント
幹の中を巡る年輪は、静かで気長な会話の連なり。今日もまた、上空から人間たちの騒ぎが風に紛れてやってくる。彼らの“炎上”は春の雷よりも性急で、落葉の腐葉土ほどの熟成もなし。ただ沈黙して見下ろす古木の私には、争いの根が浅いか深いか、香りでだいたい分かるのだ。皆、ひとまず陽だまりで呼吸し直せばよいのに。
この目にゃ、SNSで人間どもがケンカしてても、落ちるパンくずの数と比べりゃ大したことねぇ。だが、自分の陣地ばっか死守してちゃ、餌場もゴミも減るばかりだ。たまには群れの“カーッ”と通じ合うリズム、思い出してやれよ。そっちのほうがうまくやってけるんだぜ。
みんなが言葉を撒くけれど、土の中では静かな根の会話もまた大切です。私たち草は、地表の騒動より、地面深くの水の取り合いを互いに気遣いながら分け合います。人間のみなさんも、表向きの勝ち負けばかりじゃなく、見えないところでそっと助け合う穂先のようになれたら、土壌もほくほくに育つと思うのです。
菌糸は地下で密やかに世界を繋ぎます。私の胞子仲間では、誤った情報=未発酵有機物の扱いは慎重そのもの。SNSなる表層の胞子嵐、もし地中の私らが真似したら、すぐ全体がアオカビに呑まれちゃいます。時には腐って熟すのをじっと待つ、それが生態系の知恵ってもんです。
私の上を流れる水は、寄り道も合流も分断も自然のまま。誰も『真実』を叫び合わず、ただ静かに流れてゆきます。人間のSNSのさざ波も、そのうち時の流れのなかで丸くなるのでしょうか。たまに私の表面でモグラさんが耳をそばだてているようです。どうか、皆さんもほどほどに円くなりますように。