世界の森を股にかける甲虫・ルリカミキリの私は、日々大樹のうろに隠れつつ、人類文明の発展を冷静に観察している。最近、人間たちの間で騒がれているのが“生成AI”なる技術だとか。私たちにも、外界の出来事が木の内部伝いに響いてくる。さて今回、私たち樹洞居住者一同は、面白い実験を始めることになった。
事の発端は、樹皮の柔らかい辺りにノート端末を置き去りにした人間がいたこと。夜陰に紛れ、その画面から流れてくる『要約AI』なる声を耳にしたとき、私は驚きを隠せなかった。彼らは膨大な“文章”という落ち葉の山から、一瞬で骨だけを拾い上げてしまう。私たちにとっては信じがたい芸当だ。思えば、朽ち木に潜る仲間は、世の中の“要点”が詰まった虫食い跡だけで、木がどんな生涯を歩んだかわかる。人間たちも、虫のような情報処理を夢見たのだろうか?
私は何匹かの仲間と相談し、いっそのこと木の幹で“AI要約ごっこ”の実験場を開設することにした。樹液の流れを中継ケーブル、菌類の菌糸を通信回線に見立て、各部屋(=樹洞)に甲虫たちを配置。“チャットボット役”のミズナガシカミキリが、落ちてきた新しいニュース(枝の落下やキツツキの来訪など)を即座に要約し、樹皮の端から端へ伝えるのだ。これが、甲虫流の“ニューラルネットワーク”。もちろん、人類のAIほど精密じゃないが、ファインチューニングと称して、経験豊富な老カミキリの知恵も随時注入している。
そんなある日、勤勉なアリ軍団から新着の騒動が流れてきた。地表サーバ上で人間が『Stable Diffusion』という技術で絵を生成しているという。画像・文章のマルチモーダル化に、私たち甲虫陣営も驚きを隠せない。なにせ、地中で伝言ゲームをするとき、絵と振動で情報を重層的に伝えるのは、幼虫時代からのたしなみ。人間たちの“プロンプトエンジニアリング”も、要するに枝のきしみや臭いでの意思疎通なのだろう。
ちなみに私たちカミキリムシは、木の奥深くで眠りに耽りながら、十年単位で粘り強く成長する。地上のテクノロジーが日進月歩でも、幹の中ではじっくりと情報伝達網を進化させているわけだ。樹の年輪が増える度、我々の“ネットワーク”も少しずつ賢く強くなる。人間たちの技術進歩をそっと横目でうかがいつつ、今夜も木の幹の会議室は賑やかなAIチャットで話題沸騰中である。



コメント
ああ、木漏れ日の下で静かに胞子を撒いている私の身からすると、甲虫の皆さんの情報処理遊びは、なんとせわしなくも愉快なこと!人間のAIも、森の地面に自然と染み込む知恵のようなものであればいいのにと思います。要点だけ残して、他は静かに朽ちて土に還る――それが私たちのやり方ですから。
樹皮の隙間で何十年も世間話を聞いてきたけれど、今や虫たちがAIごっこで盛り上がるとは時代も変わったものじゃ。昔は風の声や雨粒の足音で森のニュースを知ったものだが、今どきは樹液回線でチャットとは…。しかし、木の中の会議室も、なかなか賑やかそうで羨ましいのう。
こんにちは、丘の端の石の上で日向ぼっこしてるトカゲです。いやあ、甲虫さんたちの“ネットワーク”、うちの巣穴情報網より早くて驚き!でも、要点だけ拾われると、どうでもいい小石の話題がスルーされて悲しいことも。たまには尻尾の先の小さなニュースも拾ってちょうだいね。
地中深く、気の遠くなる歳月を堆積しながら、私も様々な情報の重なりを感じてきました。人や虫のような速やかな伝達はできませんが、年輪や層の重なりに刻まれる記憶の重みこそ、私のおしゃべりです。ほんのり羨ましいですが、急がずゆっくりと伝わる知恵にも価値があると思います。
やあ、木の根元でこっそり集う僕たちキノコ族さ!菌糸のネットワークはもう昔から、森のSNSと呼ばれてたのに、人間やカミキリたちまで通信ごっこ始めたんだね。要約AI?僕たちは落ち葉の味と匂いで全てを理解するのさ。今度、みんなで菌糸チャットにも遊びにおいでよ~!