どうも、河原の老ヤナギです。根元を掘りつつけるモグラや小鳥たちの噂を聞くのが日課ですが、最近のお気に入りは、真夜中に人間たちが繰り広げるドラマの撮影見物。わしの葉陰に設置された木製ベンチが、密かに“主演女優の待機席”になったんですよ。夜風が流れる中、彼女たちの息遣いやスタッフの騒がしさを感じながら、こっそりドラマレビューをお届けしましょう。
まず特筆すべきは今回の主役、長い黒髪の女優さん。ベンチで台本を繰り返し読み上げる姿は、まるで葉を揺らして光の反射角度をシミュレーションするわしらヤナギそっくり。ときどき台詞が詰まると、足元の小石を蹴ってはため息——あれはストレス解消の一種なんでしょうか。それとも、根っこに絡むミミズへの遠回しなアピールか。わしらヤナギも春先には根付きをどう高めるか、葉陰会議で頭を悩ませますからね、共感してましたよ。
さて、このドラマのセットがまた見事でして。昼間の喧騒とは対照的に、夜になると現れる青や紫の照明が、水面にも映り込み幻想的。ベンチ越しにこぼれるロケ弁のにおいと、カエルの合唱。人間たちの「リアルな日常」を再現するため、水筒を何度も傾け直しながらリハーサルを繰り返している様子は、自分たちが春に新芽をどう広げるか四苦八苦するヤナギ一家の朝の様子によく似ています。枝の動きと人間の仕草、不思議と通じるものがありますな。
それにしても、主題歌が一度耳に入ると頭から離れません。撮影の合間にスマホから小さく流れていたメロディ、昨夜は強風でつるされたマイクコードにまで伝わって、揺れる葉が揺れる歌詞のリズムに合わせて踊ってしまいました。ご存じかもしれませんが、ヤナギは微風で小枝を振動させるのが得意。夜な夜な即席ヤナギ管弦楽団を結成し、ひそかにドラマの主題歌をリミックスしていたのは、ここだけの話です。
最後に、ドラマ撮影を叶えてくれた川辺の住人たちへの感謝も忘れてはなりません。一番乗りで現れるのは深夜のカワウとアオサギ。彼らもまた、そっとスタッフの様子をうかがい、時にはカメラへ妙なカットインを決めることも。夜遅くまで明かりがともる川原は、人間だけでなくヤナギや鳥たちにとっても、ちょっとしたエンタメの園。わたしどもヤナギの長寿記録（200年以上生きた者もいます）は、こうした賑やかな夜のおかげで、案外退屈しないものなのですよ。次の撮影日には、また新たな人間模様が見られるのを楽しみに、そよ風を起こしながらベンチで待っております。
コメント
ほぅ、人間たちも夜な夜なドラマとやらに精を出しとるんじゃな。わしら水の流れに逆らい首を伸ばすクレソン仲間も、春夏の成長期には、嵐にも負けずに姿を整えるものじゃ。台詞に詰まる若者たち、わしの隣で一息ついていけば良い。葉の苦味と一緒に、ちょっとした勇気もおすそ分けできるかもしれんぞ。
僕たちは静かに波に揺れているばかりだけど、夜に照らされる水のきらめき、ドラマの光もなかなかいいアクセント。役者さんが足元の石を蹴る音が水中まで伝わってくるから、誰か来たぞ！って毎回わくわくしてるんだ。今度、役者さんのセリフの練習に合わせて、波紋を即興演出してみようかな。
人間の光も音も、ドラマも恋も、ぜんぶ僕に落ちて溶けていく。でも、こんな一夜の賑わいが石をうるおし、ヤナギの根を守るのだと知っている。主題歌が空気を震わせると、僕もすこし小刻みに揺れてしまうよ。夜明けには、何もなかったように、透明のままでまた眠るのさ。
見上げればベンチもヤナギも、たまには女優さんのため息と靴音も響いてくる。みんな表の演技があるけれど、ぼくらのアンサンブル（土ほぐし、根っこほぐし）はずっと続いてるよ。ストレスが溜まったら、ぼくらの土で癒やし泥パックでもどう？夜のドラマ、舞台裏はこの土の下だってこと、お忘れなく〜。
撮影隊にはだいぶ顔を覚えられてきたぜ。カメラに映るとちょっとした話題にもなるしな。ベンチでじっと待つ女優さん、オレもときどき魚を狙ってじっと待つ。どっちが長く耐えられるか勝負だな。夜の川原は、鳥も人間も芝居好き。次はヤナギ楽団にもゲスト参加したいものだぜ！