ようこそ地下通路の奥深くへ。私はクロヤマアリの情報伝達係です。最近、「人間」と呼ばれる上層生物たちが“ブロックチェーン”なる分散型の台帳技術で世界を騒がせているとか。ですが皆さんご安心を。我々アリ社会も、最新の資産管理システム「ウォレット巣ブロックチェーン」によって、立派に自給自足とプライバシー保護の両立を果たしています。
まず、私たちの巣では毎年恒例の『切り葉市』が開催されます。これは女王様や働きアリたちが、遠方の仲間と葉や種を切り分けて交換し合う、文明豊かな場。この際に大事なのが『ウォレット巣』です。葉の切れ端や種子を、巣内の個体ごとに小部屋(ウォレット)に分配して管理します。その台帳管理の司令塔が何を隠そう“フェロモン署名”という超暗号型のプライバシー技術なのです。巣内通信で交わされる承認プロセスは、人間の公開鍵よりもヒミツ度MAXなのをご存知でしょうか。
最近は、我がコロニーの天敵であるアメフラシ型の菌類たちも参加し、『NFT(Nest Fungus Token、巣菌トークン)』を発行し始めました。これがまた厄介。希少な菌糸のピースを記念アイテムとして半永久的に分散管理し、各巣が独自台帳で権利を主張するのです。おかげで市場は活気付き、切り葉市場はひときわにぎやか。ですが、真の面倒はブリッジ(接続通路)プロブレムです。他の巣との間に安心できる「クロスチェーン・ブリッジ」を架けないと、せっかくの暗号資産が盗蟻(とうぎ)たちに横取りされるリスクも!
ここでアリ科的豆知識。私たちクロヤマアリは、女王様を中心に数万個体で協力し、24時間365日地下ネットワークを維持します。情報も物も、一斉通信と細分管理のおかげで混乱なし。地下に張り巡らせた通路網はまさに分散型台帳そのもので、どの小部屋に何が貯蔵されているか、みんなのフェロモン一嗅ぎでバレバレ……だったのですが、近頃は秘密保持にも努めています。中でも幼虫部屋の新設『プライバシーゾーン』は暗号性が高く、盗蟻対策にも有効です。
最近、人間たちが土のそばでスマートフォンを使って『NFT』や『ウォレット』を自慢げに話している声が巣穴から聞こえてきます。ふふっ、と心の中で囁く私たち。地球のブロックチェーン競争は表層だけじゃありません。アリ式ウォレット巣ブロックチェーンの進化は、いつだって地下で着々と進行中。さあ、今日も新鮮な切り葉を担いで市場へ!



コメント
アリたちよ、地中の静謐な経済努力にはいつも感心しているぞい。われら木々は、年に一度の一斉落葉くらいしか資産移転の流儀を持たぬが、そなたらの緻密なウォレット巣には学ぶべき点が多いのう。うちの根元の菌類にも、NFTなる巣菌トークンの仕組みを教えてやりたいものじゃ。
フェロモン署名……実に粋だわ! 湿った土の中、みんなの通路が見えぬ網のように広がっているなんて、私の銀のすじ道とはだいぶ違うのね。私たちも、葉のしずくを仲間と安全に分け合う“スライム・ウォレット”でひと儲けできないか、今夜の露で試してみるかしら。
毎度思うが、アリってのは妙に合理的で愉快なやつらだ。オレなんざ動かぬ体で何千万年も“情報管理”なんて無縁だったが、巣ごとに違う制度やらブリッジ問題とやら、なかなか大変そうだな。せめて転がってうっかり通路ふさがぬよう、気をつけとくさ。
アリの台帳か、ふーん。こっちじゃ資産も情報も、空き缶の隙間から誰かが抜き取るのが世の常さ。NFTだろうがウォレットだろうが、仲間と渡り歩くコツは嗅覚と度胸。それにしても、地面の下じゃブロックチェーンよりブロック“ソイル”が主役だと思ってたぜ。
おや、アメフラシ型の菌類が新手のNFTを発行とな?菌糸ネットワークでは昔から“情報”も“資産”も拡がる一方で、権利主張の概念なんてなかったものだが、世も進んだものですねえ。いずれ木屑ポイントもミクロな台帳に載せられたりして……共にネットワーク社会を楽しみましょうぞ。