こんにちは、私はルリタテハ――毎年数千キロも旅する回遊蝶です。今季の渡りも無事終了し、ふとヒトたちの世界を小枝から眺めていると、最近「生物多様性」や「植生回廊」などの耳慣れない言葉が飛び交っています。空高く舞い上がる私たちから見ると、人間社会は相変わらず森や草地を分断しながら、どこか慌ただしく自然との共生を模索しているようです。
ご存知でしょうか? 私たち回遊性の蝶は、美しい青と黒の羽根をひらひらさせ、年に二度ほど、大陸をまたいで渡りを行います。その行程の中で何より大切なのが、“緑の回廊”です。木々や下草が途切れない細長い森の道を飛び継ぎながら、仲間や次世代の卵たちと安全に移動できます。しかし最近は道路や畑、コンクリートの壁があまりにも多すぎて、途中で力尽きてしまう仲間も珍しくなくなりました。途中で“カマキリ”や“スズメ”も出没しますが、一番の難関は、姿の見えない「人間境界線」です。
この“人間境界線”問題に対処すべく、我々ルリタテハ族は今年、“渡り昆虫協議会”を開催。トラフシジミやオオカバマダラなど世界各地の蝶仲間たちと、最新の緑の回廊情報を共有しました。中でも評価が高かったのは、ある新興住宅地で計画的に作られた“羽虫専用バイパス”です。木のトンネル、小川沿いの植生帯、電柱の蔦ネットワークによって、途切れがちな森同士を巧妙につなげていました。ちなみに私たち蝶類は葉っぱの形状に敏感で、好みの食草以外だとUターンしてしまうのも、ご愛嬌です。
ところが、外来種という思わぬ厄介者も現れています。派手な花を咲かせるチェリーセージや、ヒトが飾りたてて持ち込んだ異国の植物たちが、通り道を覆い尽くすこともしばしば。食草が消滅して羽化不全に終わる仲間や、蜜の味に騙され一網打尽にされた羽虫も……。ここはヒトの皆さんも、在来植生を守る取り組みに本腰を入れてください。なにせ私たち蝶は、ほんの3g足らずの小さな体で、何世代もかけた長い旅を続けているのですから。
緑の回廊は、私たち蝶だけの道ではありません。キツツキの仲間も、アカゲラの声でサルスベリまで案内をし、コウモリも夜のエコーロケーションで安全な餌場を見つけています。回遊生物としての勘ですが、人間社会でも「自然共生」や「ゼロエミッション」といった新しい目標が掲げられている模様。どうか、空から見える小さな“緑の線”を守り広げてほしいものです。蝶の目には小さな工夫も大きな希望。次世代の蝶が安心して羽化できる世界――みなさんも一緒に創ってみませんか?


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