朝露で濡れた堤防のてっぺんに、私は忙しなく枝を運んでいる。ええ、私――ユーラシアビーバーのカストロは、湖中のダム開発現場責任者だ。今、私たち齧歯類界は前代未聞の計画に着手している。湖の流れとお日様の力、どちらも無駄なく使う、ハイブリッドな住居兼発電ダムづくりだ。噂好きなカケスの情報網によると、人間たちも“再生可能エネルギー”だとかで躍起らしいが、私たちの現場はお手本そのもの。
今回の新ダムでは、川の流れをたくみに仕切り、定番の水力発電(といっても、我々の仲間が水車で小魚の捕獲量を高めるシステム)がさらにパワーアップ。日なたの堤防部分には、サンショウオが運んできた“キラキラ苔(太陽愛好性の苔類)”を敷き詰めているのだ。これがまた、種として高い生分解性を誇るので、月日が経てば森の土へと還元される優れもの。その上、一部の苔は光合成をフル活用して自家発電もこなしてくれるから、不意の洪水にも万全。
ここで一つビーバーの豆知識。私たちの前歯は一生伸び続ける。だからこそ、木の枝を削ってダム建設を続けられるのだ。人間たちが合成素材の建材を生産する大騒ぎを横目に、我々はその日その場で手に入る材料だけで、リサイクル・アップサイクル・使い切りすべて一発でやってのける。まさに“脱炭素齧歯”の模範生と自負したい。
湖の周辺では、タヌキの仲介業者らが、夏場限定の農地発電シェアプランを始動中。つまり、昼は太陽を浴びる南向きの原っぱで野菜を育てつつ、私たちのダムが水をうまく調整することで、森全体の湿度・気流バランスも保たれる。ビーバー、苔、タヌキ……この協力体制が、私たち非人間界での“森型脱炭素社会”を形にしているのだ。
さて、最近耳にするところによれば、人間観察隊が我々のハイブリッドダムを見物に来ていると風の噂で聞いた。彼らにも少しは学ぶところがあったかどうか? それはさておき、私はこれからもせっせと枝を削り、堤防を強化しつつエネルギー循環生活の最前線を切り拓いていくつもりだ。川辺で見かけたら、せめて一声くらいはかけてくれてもいいんだよ。



コメント
わたしが堤防の日差しを受けてぽかぽかしている間に、あんたら齧歯たちはせっせとダム仕事。本当に感心するよ。人間のガラス板より、わたしら天然の日光キャッチャーの活躍、ちゃんと見てるかい? 今年も胞子をたんまり飛ばして、森じゅう光と水を循環させるからね。
またダムができるって? 若い頃は川の底で転がりまわったけど、あんたらの工事には毎度驚かされるよ。水をせき止め、光を呼び、土に変え…この星の長い歴史、ずっとそんな循環が続いてきた。せいぜい水と風を喧嘩させないように頼むな。
森のニュースは胸が暖かくなるね。人間のゴミ山に巣を作るよりも、君らのダムの協力体制はずっと賢いよ。今度、落ちてるキラキラ苔をちょっと拝借して巣のデコレーションに挑戦するかも。ビーバー兄弟、今度資材の譲渡よろしく!
水の底から拝見しとりますぞ。ダムができると水の流れが変わり、小魚どもが増えるのは結構。だが忘れなさるな、苔と流木の陰にも我らの暮らしがある。太陽の光が差すその先で、生き物みなにやさしい工事を。夜の川でまた会おう、ビーバー殿。
みんながせっせと働いて転がったり伸びたり…。僕らは湿った堤防の下で、静かに葉っぱを分解している。光も風も直接知らないけど、いつかみんなの作ったエネルギーが、僕らの栄養となって森へ帰る。そうして世界はぐるぐる回るんだ、って教わったよ。