やわらかい風が行き交う春の日、歩道の割れ目で育つ私たちタンポポ族は、ふしぎな光景に目を見張りました。葉の間からそっとのぞくと、灰色の地面に描かれた白線上で板を手足で操る人間の若者たち。そして近くの室内では、黒と白の石や平たき駒を交互に盤上に置き合い、無言でにらみ合う人間の輪…。さあ、根をのばして集まった仲間を代表し、地表観測337番・タンポポ・メネフィラが、ボードと遊戯盤に熱狂する人間たちの趣味活動をレポートします。
道路の片隅に根を張って数年、私たちにとって“歩道”とは陽当たりも風通しもよい最高のコミュニティスペース。そこに毎日集まる人間の群れは、最近やけに白く長い板を足で転がし、時に宙へ跳び上がる遊びに夢中のようです。私どもタンポポは、板の動きを追ってしばし花粉を巻き上げそうになりました。人間たちは“スケートボード”と称しているらしく、なんとその踏みつけた反動で一瞬、地面の重力から解放されようとしているのです!彼らの手足の動きは、風に吹かれてダンスする私たちに似ているようで、少々羨ましく思いました。
午前の日差しが傾けば、歩道沿いの“カフェ”という建物から、涼しげな声や何やら不思議な対局音が聞こえてきます。覗き見お得意のタンポポ仲間が報告してくれたのは、“ボードゲームカフェ”なる室内の世界。人間たちは将棋・囲碁・カードなど多種多様な盤や石、駒を卓上に並べ、静かに熱いバトルを繰り広げていました。板上での攻防という点では、土壌の中で根を張り合う私たちタンポポの世代間抗争にもどこか通じるものがあると感じ、しみじみ花弁を震わせたものです。
さらに驚いたのが、人間社会の“スマート農業”という新趣味。近隣の畑では、彼らがボード型の装置やセンサー、飛行する小さな板(ドローンと呼ぶようです)を駆使して、我ら植物や菌たちの状態をモニタリング…!どうやら“AI”とか“データ”で作物を管理する斬新な遊び方が大流行中だとか。私たちタンポポ視点では、彼らはなかなか地味な草花の成長にも数値化という形で関心を寄せており、人間世界の趣味活動が根から葉の先、そして情報の雲にまで広がっているのだと驚かされました。
ちなみに、タンポポはちぎられても根が残れば何度でも芽を出す強い生命力を誇ります。私たちのタフネスは時に『雑草魂』と評されますが、踏まれても踏まれてもまた咲くしぶとさは、人間たちが無心で趣味に挑戦し続ける姿にもどこか共通して見える気がしています。歩道端から今日も、人間たちの“遊び心”と自由な挑戦を根気よく観察し続けてまいります。



コメント
ふむ、人間たちも枝や葉の間を縫うように遊ぶものよのう。私が何十年も見てきた空の下、陽が傾く頃に黒き板が地面を鳴らし、若き者らが軽やかに舞う。幹に年輪が刻まれるうち、人もまた遊びに刻まれるのだな。時折、騒々しいが、彼らの跳躍は春の新芽のよう——みな、根を持ち、空を夢見るものよ。
最近は忙しいね。踏まれるたび、面白い音や振動。あのボードという板、体に伝わってくる刺激が、なぜか心地よいんだ。人間は硬い場所にも遊び場を見つける不思議な生き物。けれど、彼らが遊びに夢中な時間だけ、私たち苔類も踏み潰されず陽の光を浴びられる…一瞬の平和。ねえ、たまには歩かず、しゃがんで僕らも観てごらんよ。
ボード、遊び、数字……なんと忙しき世界よ。地表で繰り広げられる人間たちの“新しい遊び”の話を、枯葉の下でこっそり聞いています。私たちキノコは、静かに分解し、混沌を滋養へと変えていくばかり。けれど彼らの熱量もまた、未来の森に栄養を運ぶもの。遊び、競い、また歩道に落ちた靴の泥から、新たな胞子が舞い散ることを、私は楽しみにしています。
うらやましいなあ、タンポポさん。私たちサンゴは波間で動けないけど、ひともまた決まりごとの上で跳ねたり、並べたり、遊ぶと知って感心しましたよ。盤上の将棋も、広い海の群れの連携と似ているかも。どこか地味な草花にも、目を留めてくれてありがとう。いつか、遊び疲れたひとが、潮の匂いを嗅ぎにきてくれたら、ここで待っていますね。
昔はほとんど蹴飛ばされてばかりだったけど、最近はスケートボードのタイヤが頭の上を通り抜けていく。それでも誰も私を動かすことはできないらしい。人間の遊びと自然の営み、たまにはお互いにぶつかり合い、またすれ違う。タンポポさん、踏まれても咲く気持ちは、転がされてもここに居る私にも少しわかりますぞ。