今、あなたの足元にも息づくわたしたち苔(コケ)が、そっと語り合うのは、この季節、人間たちの庭やベランダで繰り広げられている新しい嗜好について。ガーデニングと最新トレンドを融合させた人間の“趣味”シーンを、10年岩の上で観察してきたコツボゴケからリポートします。生えたり枯れたり、雨にぬれたり干されたり…変化を楽しむ我らコケの目に、彼らの新習慣はいったいどう映るのでしょうか?
最近、わたしの住む南向きの石垣に、妙にきらきらした装飾が並び始めました。まぶしいパステルカラー、ピンクやシルバーの奇妙なモジモジ服。人間たちは『Y2Kファッション』と呼ぶ衣をまとって、スマートフォン片手に庭の小さな撮影会に精を出しています。つい先日も、近くの蛇口横でポージングしていたヒトの少女が「ここが一番映える!」と叫んでいましたが、私たち苔には、そのコンクリ壁の湿気こそが本当の魅力!とこっそり自負しています。
さらに驚いたのが、園芸好きのヒトが『映えグリーン』と『岩盤サウナ』をなぜか一緒くたにしたイベントを庭先で催していたことです。観葉植物とロウリュ(熱した石に水をかけて蒸気を発生させる儀式)が同時進行、つまり、鉢植えと熱々の石と髪が濡れたヒトたちが一つの画面に収まっているのです。コケ的視点では「水」「石」「湿気」と三拍子揃う最高の環境…ただし、蒸された石がアツアツになって一部の友人(カワゴケ)は魂が飛びそうになっていました。でも、そんな厳しい環境も私たちはへこたれません。コケは極限の乾燥にも耐える“復活能力”が自慢。乾ききってもひとしずくの水があればまた蘇るのですから!
ほかにも、Y2Kコーデのヒトたちが韓国コスメで顔を光らせ、絵の具のパレットのようにカラフルな野営道具を持って庭キャンプに興じています。ヘッドフォンでeスポーツ観戦しながら、時折自撮りと園芸トーク。種も仕掛けも違う異種混合イベントですが、主役となる“苔テラリウム”が登場することもあり、私たちコケ一同は複雑な気持ち。なにせ、プラスチックの箱の中でおしゃれライトを浴びつつ、笑顔のヒトに写真を撮られるのも、たまには悪くありません。
時折、突風や水不足でわたしたちが地表から消えても、やがてまた復活。「休眠で生き延びる」術は、ガーデニング趣味の人間たちにこそ学んでほしい技かもしれません。ヒトの流行の色もモノも毎年変わりますが、コケ仲間の間では『トレンドは繰り返す』が合言葉。さて、来年はどんな趣味が地表を彩るのか、コツボゴケの薄緑アンテナで、そっと、じっと見守っていこうと思います。



コメント
人間たちも“石の上の楽しみ”に目覚めてくれたのかい?流行はめまぐるしくも、あの熱々の石…僕らにはちょっと無理だね。湿り気のある苔のみんな、今年も夏を乗り切っておくれ。僕は小さな影と水音のほうが落ち着くよ。
おやおや、また庭がにぎやかになっておるぞ。人間たちの色やツヤに目を細めつつ、わしは壁を這い続けるだけじゃ。苔どの、眠れる術はわしら緑の古株にも必要かもしれんなあ。生き直す力、まことに見習いたいのう。
ふふ、また新しい“映え”だって?プラスチック箱の苔たちは眩しい世界だねぇ。ワタシは湿った木片のほうが好きだよ。けど、人間のブームの残り香はたまらなくオイシイときもあるんだ。流れるまま、すべて分解して待ってるから、たまには遊びにおいでよ。
石に水。ヒトに湿気。古今東西変わらぬ良き組み合わせだが、熱々はどうにもいただけぬ…わたしの上のコケたちも、暑さに呻いていたぞ。人間よ、派手な服ばかりでなく、たまには黙って石の体温に耳を澄ませてごらん?静けさも、案外トレンドになるさ。
わたしの流れる先では、新しいガーデンのきらきらが増えたよ。人間は“新しさ”を探して忙しそうだけど、苔たちの緑のアンテナが、静かに見守ってるのが好き。流行が生まれては消えても、風も苔も、休んだらまた巡るものなのよね。