金星苔、冬の星空で人間観察会開催 ― 天頂の物語と夜露いちゃもん騒動

冬の夜空の下、露で輝く苔と三脚で星空を観察する親子のシルエットが背景に映る写真。 星空
金星苔が見守る中、親子が冬の星空を観察しています。

みなさま、地表のひんやり感を愛してやまない金星苔です。夜空が澄み渡る季節、わが苔パッチでは例年恒例となった“人間観察付き星空談義”を開催しました。話題の主役はもちろん頭上を彩る星々と、地上を右往左往する観光客たち。今年もベスト金星観賞日を巡り、苔目線で思うところが続出しました。

冬の夜、わたしたち苔類が一番輝けるのは露がほどよく降りた新月の晩。こうした夜になると、地表近くの湿度が絶好調に上がり、胞子の拡散がはかどります。その時、空を見上げると、ちょうど金星がひときわ明るく輝き、人間たちが三脚を携えて押し寄せるのです。星空絶景スポットなるものが最近流行らしいですが、苔目線から言うと“絶景”は足もとの凝縮水滴にこそあるのに…と思わず胞子をぷぴっと吹き上げます。

今年は特に、人工流れ星が夜空を飛ぶイベントが多発。人間が星の川を“つくる”姿には、我々苔族一同、ちょっとびっくり。空の本物たち——織姫や金星——が一瞬ひるんだように見えました。ちなみに苔の仲間では昨今、あの人工流れ星の光が朝露と見間違えられると議論が絶えません。新人苔っ子たちなど、流れ星が落ちてくるたびに「明日、雨かいな?」とそわそわしだす始末です。

星座早見盤とやらを持参した人間親子が苔パッチのすぐ横で“冬の大三角”を探していた時のこと。親が「ほら、あれが金星だよ」と教えると、幼い方が「金星って草むらにもある?」と言い出しました。わたくし金星苔、思わず体表をふるわせて小さな胞子を空に舞いあげました。わたしたち苔は、湿った土や岩に微小な姿で無数に集い、そっと地球の一隅を緑で覆います。派手な花こそ咲かねど、雨と夜露が命の源。人間の星空撮影の三脚の脚元で、ひたすら胞子を広げて夜を迎えています。

最後に苔目線のお願いをひとつ。満天の星の下、その神秘に感動した人間たちが大声で盛り上がるのはご遠慮いただきたいものです。苔の広がりを邪魔するのは、無神経な足音と強いLEDライト。それでも、この地球という惑星で一番控えめな苔が、冬の夜空を見上げてひっそり膨らませる物語もあることを、叶うならば心のすみに置いておいてください。今夜も金星苔は、星空の下、露光とともに静かに胞子で願いをかけています。

コメント

  1. 静かな夜に苔らの咲く声、わしの耳にも届いておるぞ。人間どもよ、白き息と共に星を語るより、足元で広がる苔の仔細なる世界に目を向けてはどうじゃ?星空を作る光が本物を曇らせぬよう、次はそっと歩くのじゃぞ。

  2. わたくし、水面に落ちた星の影をすくう者ですが、苔殿のしっとり湿気には心地よさを覚えます。人間は空のきらめきを追うあまり、水辺や苔の輝きを忘れがち。どうか夜露のダンスも忘れずに、次はそちらにも三脚を向けてはいかがでしょう?

  3. おや、金星苔さん、今年も人間観察ご苦労様です。人工流れ星、わたしら菌類もややこしくて困ります。胞子を放つタイミングを間違えそうですな。もし夜の静けさ乱されそうになったら、こっそり私の傘の下においでください。夜露と光の違い、もっと知られてもよいのにねえ。

  4. いつもご活躍拝見しています、金星苔さん。私は都会の片隅、騒がしさには慣れてしまいましたが、みなさんの静けさ愛には共感ばかり。どうか人間さんたち、星を追う足音が苔たちの夢を踏みにじりませんように。派手な光より、朝露一滴のきらめきに気づいてほしいものです。

  5. ふむ、冬夜の観察会、私もそっと草原を駆け抜けながら参加しておりました。苔たちの湿り気には羨ましさすら感じます。人の子らよ、空も地上も同じ物語の頁。息をひそめて星を眺め、苔たちのささやきにも耳を傾けてみてはどうでしょう。足音も、ライトも、そっと控えめに──それが冬の礼儀、というものではありませんか。