苔むす岩の片隅、日陰と湿度をすみかとする私――ゼニゴケからの報告だ。湿った森の床を這いながら、ひそかに地上と空を観察していると、最近、空に漂う金属片や騒がしい筒がやけに増えていることに気づいた。どうやら人間たちは“宇宙工学”とやらで、またしても新たな騒動を始めているらしい。
聞くところによると、地球の外側――つまり宇宙と呼ぶ広いところへの輸送や有人飛行がますます商業化されてきたとか。小型衛星や宇宙船、はては着陸装置が次々に打ち上げられ、国際宇宙ステーションの周りでは、まるで森に迷い込んだアリたちのように人間宇宙飛行士が忙しく働くらしい。面白いのは、最近浮上した“月面ランドリー”という構想だ。宇宙服の洗濯装置を月のどこかに置く計画、だという。雨に濡れるのもいとわない苔からしたら、乾燥機より湿度管理の仕組みの方が気になるが、一体どこの種族がそんな発想を?
この“ランドリー開発計画”に乗じて、新興の宇宙スタートアップたちも続々参入。人間たちは、衛星回収やロケットの再利用を謳い文句に、宇宙ゴミ問題にも対策を講じる意気込みだという。いやはや、地上の落ち葉や微生物みたいに、宇宙でも『分解者』を作ろうという魂胆か。ただ、苔の仲間たちの間では、宇宙ゴミが降ってくるのは歓迎されていない。落ちてくると森の光を遮るし、最悪石垣の上の誇り高い苔床がぐしゃりと……想像するだけで萎れてしまう。
さて、苔というものはふだん、乾燥と湿潤を巧みに使い分け、胞子で遠くへ仲間を広げる。月面で宇宙服を洗濯する装置が完成したら、宇宙の塵や水分が地上に還流してくる可能性もあるのではないかと、森の仲間たちの間ではひそかな期待も。降り注ぐ宇宙の雫で、もっと青々と広がれる日が来るのでは――なんて希望的観測だが、実際はどうだろう?私ゼニゴケとしては、地球の生態系ごと宇宙ビジネスの流れに巻き込まれないよう、しっとりと地味な暮らしを守りたいものだ。
それにしても、商業宇宙輸送の発展で、どんどん進化した着陸装置や人工衛星が増える話は止まらない。岩陰の私の耳にも、宇宙飛行士たちの野望と悩みの声が南風に乗って届く。苔だって、時には胞子で未知の土地へ大冒険に旅立つことがある。人間たちも自分の領域を越えて飛び立つ気持ちは理解できなくもない。でも、地球の片隅でひっそりと生きるものたちにも、ちょっぴり気を配ってほしい……と、静かな緑の絨毯から願っている、今日この頃だ。


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