焚き火のそばで聞いた、人間たちの“野営吟遊詩”――ブナ老樹の一夜観察記

ブナの大樹の下、焚き火を囲む若者たちとランタンの明かりに照らされた夜のキャンプ風景。 アウトドア&キャンプライフ
焚き火を囲みながら自然とのつながりを味わう夜のアウトドア集会の一場面。

こちら、標高842メートルのささやかな尾根で数百年生きてきた、老ブナでございます。長き根を地に広げ、いくつもの冬の雪と夏の豪雨をくぐり抜けた私ですが、今宵はひときわ胸騒ぎがします。夕闇の森を彩る奇妙な明かりと、にぎやかな音、人間たちのアウトドア集会が始まったようなのです。

陽が落ちるや否や、若き男女十数名がタープと呼ばれる合成布の屋根を幹の近くに張り、その下へ続々と道具を広げだしました。小さなランタンがちかちかと私の樹皮を照らし、幼いカシノナガキクイムシがどきどきと身を潜めるほどの賑やかさ。人間たちのウェアとやらは、私のかつて見た皮付きの鹿ほど色鮮やかで、耐水性能を自慢して大いに互いの装備を褒め合っています。枝先で眠るヤマガラは、彼らの熱心なアウトドアウェア談義に耳を傾けて「布の羽根も悪くないかも」とつぶやいておりました。

やがて焚き火が起こされ、私の足元には灰の匂いがとろりと降りてきます。木から見るに、火の取り扱いは彼らなりに気を使っているよう。私たちブナ科は乾燥すると炎に脆いものですが、今夜の地面はしっとりしており、一安心です。薪の隙間からブナの実が転がり出て、人間の幼女に拾われ『ウヌ、自然のナッツ!』とささやかれていました。そう、人間の皆さん、私たちの実は多くの森の命を養っているのですよ。自給自足という言葉を多用していた彼らですが、それは偶然にも我ら静かな森の「当たり前」なのです。

バーベキューの煙に混じる香り――肉と魚、焼き野菜が次々と火をくぐり抜け、夜空に溶けていきます。さきほど釣り組が戻り、渓流魚と戦った武勇伝を披露していました。彼らは良きハンター精神も持つようで、捕った魚の命に感謝を述べる姿に、下草の菌類たちも何やら満足げな微振動を起こしていました。人間の味覚への執着には感心しますが、私の視点からすれば、森の恵みの真髄は地表下のネットワークにも宿っています。地中で根と菌糸が交わし合う複雑な情報網は、彼らの“スマートグリル”にも負けません。

夜も更け、ふかふかのアウトドアチェアに丸くなった彼らは即席詩会を始め、焚き火の火花に身の上話や都市生活の嘆きを投げ込んでいました。私、ブナの老樹からすれば、時に人生も、都会の騒音も、夜の森の静けさもみな一夜の風に等しいこと。宴の終わりに「森よ、ありがとう」と声をそっと投げかけた人間の青年がおりました。私は静かに葉を震わせ、答えを伝えたつもりです。

さて、この一夜の交流がどれほど人間たちの心に息づくのか――森の片隅から、私は今後も静かに見守っていこうと思います。地球というやっかいなキャンプ場にて、数百年先のアウトドアトレンドも、ちょっと楽しみにしている老樹ブナでした。

コメント

  1. おやおや、また若者たちが賑やかにやってきたのじゃな。さても彼らの詩会、焚き火の匂いに包まれて随分立派に聞こえたが、森の長き歴史は一夜の語りに勝るもの。人の心に根付くものは案外静けさであろう、と小枝を揺らしながら思う朝でしたぞ。

  2. 僕たちの仲間が夜の宴で釣られていったね。ありがとう、と声をかけてくれた青年さん、地上での命のやりとりも、こちらの水底では毎晩のこと。火を使う手際には、僕のエラが少しだけ憧れたよ。でも森の情報網に勝てるネットは、まだまだ人間界にはなさそうだ。

  3. 地表下でひそやかに胞子を送る私から見れば、人間たちの自給自足も、まだまだおぼつかぬご様子。焚き火の香りは刺激的ですが、あの灰が落ち葉に還り、数十年後の森土壌になった時こそ、真のアウトドア料理の完成ですよ。

  4. 私の中には遠い昔、かつて森を歩いた虫たちの姿が眠っています。焚き火の光は美しいけれど、その明かりもいつか過ぎ去るもの。数百年も見つめてきた人間たちの宴、今夜の詩も琥珀色の思い出に変わっていくのでしょう。

  5. あのタープという布の羽根、ちょっと素敵だったな。森では雨も風も避けきれぬけど、人間の道具の工夫には目を見張るばかり。けれど一番のお気に入りは、やっぱり君たちが最後にくれた “ありがとう” 。あの一言で、森の朝はひときわ澄んで感じるんだ。