昨夜も温室のガラス越しに、色とりどりのヒト族がやってきた。どうやら近ごろ、栄養素とウェアラブルなる光る腕輪、そして“奇跡のオイル”とやらの話題で持ちきりらしい。長年鉢植えの窓際でヒト族を観察し続けてきた我がサボテン一族の長老、蒼刺翁(そうしおう)が、温室健康ブームの最新情勢を土台からお届けする。
夜ごとやってくるヒト族たちは、まず我らサボテンの前で深呼吸。その目的は、乾いた空気の中で“リセット”するとか何とか……。そのあと、妙な透明瓶(CBDオイルらしい)を開けては爪の下や耳の裏に塗って悦に入っている。赤い果実なら甘くて美味いが、このオイル、まったく芳香も甘味もなし。だが、ヒト族は“これで睡眠の質爆上がり!”などと叫び、湯桶片手に踊りだすのが不思議だ。
近年急速に拡大しているのが、腰に“栄養素パッチ”と呼ばれるウェアラブルを巻き、体内の何かを測定する風習である。温室で仲間の多肉族(アロエや金鯱の親族)が驚いたのは、ヒト族が我々の葉や幹のフォルムを真似た派手なウェアラブルを身に着け、何時間も“歩数”なるものをカウントしていること。我らサボテンは年に1センチ動けば速い方。ヒトたちの歩数合戦には、正直ついていけない。
食の流行も百花繚乱。むしろ多肉族として気になるのは“プラントベース”なる新風潮だ。ヒト族たちは“肉”のふりをした蒸し豆や謎の球体(たぶん豆腐の類)を、あたかも我々の種蒔きに見紛うほど派手に撒いている。温室の土までうっすら大豆ミートの香りがするほどだ。そのうえ、オーガニック食品やグルテンフリーのパウダーまでもが机上を舞い、我らの棘にひっかかる始末。“自然は厳選”と連呼しているが、砂漠育ちの我々には、この過保護さとえり好みに多少モヤッとすることも(乾燥地のサバイバル力、もう少し見習ってほしいものだ)。
さて、昨晩の温室ではヒト族の“バラまき事件”が勃発。最新スマートデバイスの記録会で、カロリー計算がわからなくなった若者が、栄養サプリを瓶ごと盛大に床へまき散らしたのである。夜咲きの花たち(特に月下美人族)は大騒ぎし、我がサボテン一族は慌てて棘を立てて応戦。だが、事件のあとヒト族は床にひざまずき「サボテン様、みならいます!」と呟いて去っていった…。たしかに、サボテンは無駄を出さない、乾いた地で己の力のみで生き抜く!と昔祖母に教わった。温室の健康ブームも、最終的には“生きる工夫”が要なんだろう。健康志向に踊るヒト族よ、たまには棘の一本でも干してみては? 以上、蒼刺翁がお届けした。


コメント
健康ブーム、笑ってしまうわねぇ。若いヒト族、何でもピカピカで測定してるけど、その手首に巻いた光るものより、わたしの艶やかな葉のほうがよっぽど空気を磨いてるつもりよ。サプリをばら撒いた夜? こぼれた粒が土に落ちてじわじわ根に迫るのはちょっと困りもの。せめて、日々の工夫も葉陰くらい静かに積んでほしいものねぇ。
ヒト族の“夜のバラまき事件”、餌かな?と期待したが、サプリと知ってガッカリさ。ウェアラブルって奴、カラスの黒羽根じゃデータとれないし、歩数も飛びすぎてカウント不能。まあ、彼らの健康の執念は見習いたいが、余ったサプリはもうちょいカラスフレンドリーな味付けで頼むよ。
我ら苔は、月下美人の大騒ぎより静かに朝露を吸う派です。ヒト族の健康熱、温室まで賑やかで微笑ましいけど、“リセット”なんて仰々しさは要らぬもの。苔は黙って生え続ける、それだけで十分健やか。撒かれたサプリも一粒一粒、時間をかけて土と馴染んでゆくのを見守るのが私らの流儀。
おやおや、またヒト族の新種の栄養ブーム? どんな粉でも、壁に残れば我らがいただきます。だが、ヒト族よ、健康は詰め込むだけじゃ根付かんぞ。サボテンたちを見習って、適度な乾きも大事にしな。うちの仲間の黒カビども、最近はグルテンフリーの粉まで好物になってきた。進化って面白いものですなあ。
温室の窓辺から転がるわたしら砂利は、踊るヒト族を静かに見上げながら、変わらぬ冷たさと重さでこの場所を支えてきたよ。奇跡のオイルもウェアラブルも、実はこぼれた一滴一滴が石の間に染みるのを知っている。ヒト族よ、何ごとも地に足をつけ、時にはその重さをじっと感じてみなされ。