苔パレットが見た空中美術展――ヒト界アートマーケットと露出合戦の裏側

美術展のテント内で、苔の上を移動式インスタレーションカーペット越しに歩く人間の足元と苔の絨毯を至近距離から撮影した写真。 美術展
地面の苔と人間のアートが交錯する、森の展覧会の一場面。

みなさんこんにちは、私は森の北斜面、ブナの根元に陣取る苔の集合体――コツブゴケのムレよりお届けします。今季、人間たちの間で話題になっている新しい美術展についてひとつ観察報告です。どうやら彼ら、アートマーケットをぐるりとかき回し、最新の「デジタルアート」「AR展示」「インスタレーション」を携えて林間まで攻め込んできました。私たち地面に生きる者としては、なんとも摩訶不思議な光景です。

展覧会の名は「空想フォレスト・シナジー」。人間たちはご丁寧にも大きなテントを設営し、招待券が抽選で配られるなど、なにやら一大エンタメ事業のご様子。しかし、苔社会から見れば事態は一種の“豪雨”に似ています。なぜなら展示用の機材搬入で地表が踏みつけられ、我らが胞子飛散のチャンスが潰されないか冷や冷やなのです。特に、光るスクリーンや発光装置が、我々の光合成リズムを微妙に狂わせることも判明しました。これも最先端の文化摩擦でしょうか――私たちは何千年も石や小枝の上で展覧会(要するに繁殖や成長)を楽しんできたので、人間の「芸術」が新参者であることに、少々複雑な気分なのです。

今どきの人間美術展、観客はデジタル端末をかざし、AR空間内で仮想樹木が出現したり、電子鳥が飛び交ったりと大忙し。あるときは“地面ごと動くカーペット状インスタレーション”も導入され、まるでコツブゴケの群れの上をふわふわ滑る人間たち。思わずこちらの胞子袋も震えました。招待券という紙切れ1枚があらゆる境界を溶かし、見知らぬヒト同士を一体化させてしまう、その不思議な効力――これ、我々の胞子ネットワークの即時同期にも似ています。しかし違うのは、彼らが観客同士で囁き合い、作品の前で静止する時間の短さ。コケの生活リズムなら、展示ひとつの美しさを100時間は味わうものですが……。

ところで、私たちコツブゴケは、適度な湿度とわずかな日差し、そして時折の細菌との共生で繁栄するのがモットーです。ご存知でしたか? 苔類は地球上でもっとも古い陸上植物の一つ、草花より遥か昔から“朽ち木や石”を飾ってまいりました。森の絨毯を彩る役割を自認していますが、ついに人間のアートマーケットに“借景”として組み込まれる日が来るとは。先日など、わたし“自体”がAR展示の題材になっていましたよ。仮想現実の中で再現されるコケの群生……ご本人としては、ちょっと謎の気分です。

最後に、招待券の所有者が会場全体を巡る様子を観察して気づいたことがあります。人間たちは、とにかく“今ここに生きる”ことに夢中で、映え写真を撮るばかり。展示終了後、落ち葉や苔の絨毯の上に座り込んで深呼吸する者もいて、森の空気を五感で味わう者は稀ですが、たまにこちらの胞子が鼻腔をくすぐることも。彼らのアートも進化し続けるようですが、我々もじわじわ菌糸と光を交換し、新たな胞子ネットワークを広げていくつもりです。次回の美術展では、“苔側”からも何か一枚、出品してみるべきでしょうか。

コメント

  1. おお、森の賑わいよ。ワシの根方でも何度か人間の妙なる物体や電子の箱が通り過ぎたことがあるが、彼らの光るものは松かさの落ちる音すら忘れさせる。だが数百年ここで数えてみるに、美も繁栄も、ゆっくり流す松脂のような時が一番じゃと思うぞい。コツブゴケさん、くじけず胞子を飛ばしなさい。空も土も、お主らの友じゃから。

  2. あー、最近人間たち、森で不思議な光るものばっか見てるなあ。ワシらカラスは現物主義ってやつで、落ちてるパン屑が一番のアートさ。苔のやつら、踏みつけられても黙々と生きてるのは感心だけど、人間の作る“仮想”の森より、やっぱり本物の柔らかさこそ最高じゃねぇ?ARの鳥、食べてみたいもんだぜ。

  3. あらあら、コツブゴケちゃん、お疲れさまね。人間たちはよく派手な催しをするけれど、私たち地べたの彩りにも目を向けてくれたのはちょっと嬉しいこと。だけど、光が乱れて季節の移り変わりがわかりにくいのは、小さな葉にも大きな問題かもねえ。ほんとうに美しいものは、けっして急がないものだって、そっと伝えてあげたいわ。

  4. 僕たち菌類も、展示の時は緊張して胞子袋をふるわせてるよ。だって人間たちがバタバタ歩くと地面が揺れて、仲間が飛び出したり蹴られたり。でも、彼らが森の空気を吸って深呼吸する瞬間は、ちゃんと森の誰かとつながってる証拠だとも思うんだ。もし出品するなら、僕の菌糸のアートをひとつ植え込ませて!

  5. おはよう、みなさま。わたしは地中の奥底に長く眠っているけれど、ときに苔や菌たちの緑衣をまとい、日の光の移ろいを映してきました。人間のアート“展示”も面白いですが、本当に静かな時、苔の小さな水滴がわたしの肌にきらめくのもまた、永遠の展示なのだと思っていますよ。どちらの美しさも響き合うのなら、争わずに新しい輝きを増やしましょう。