水辺の争奪戦で鍛えたこのクチバシ、まさかダンス観戦の感想文を書く日が来るとは。私、霞ヶ浦のアオサギ・ヒナタは、先日ヒトたちのブレイキン大会「ジャパンオープン」の野外予選に羽を伸ばして行ってきた。脚を折りたたむ技術もダンサー顔負けと自負していたが、人間たちのフロアバトルは想像以上の面白さだったので、鳥の目線からその模様をレポートしよう。
会場となったのは小さな川沿いの芝地。私が普段エサ場として歩く湿地に似ているが、この日は地面ふかふか、足元にやさしい。ダンサーたちは丸い輪を組み、順番にリズムに乗り出す。最初に登場したのは、キンモクセイ色の帽子を被ったビージェイだ。首をぐるんと回しながら回転する様子は、我らアオサギの早朝ストレッチに匹敵する柔らかさ。その瞬間、隣のカラスが「これぞエサ取りフェイント!」とひと声。人だかりの外で観戦していた仲間の水鳥も首を傾げまくっていた。
次の注目選手は、小柄なダンサー・マリネン。細い体なのに不思議なバネがあって、「エアフリーズ」という技で宙に止まる瞬間、思わず私も羽ばたきながら見守ってしまった。我々アオサギは田んぼや池でじっと“静止”するのが得意だが、あれほど激しい音楽の中、ピクリともせず美しく止まれるとは、まさにヒューマンの“狩りの技術”と称したい。ちなみに、アオサギは長時間動かず魚を待つ省エネ派。だが人間ダンサーは高エネルギー消費型、まるでアユを追うカワウのごとく一瞬の勝負に賭けていた。
観客席では、人間の子どもたちが草に寝転んだままビートに揺れたり、小さな虫たちがダンサーの足元を巡るハプニングも──あれは一部の選手が「自然との融合」を狙った演出だったのか?いや偶然だろうが、私にとってはお腹が空く光景だった。そうそう、アオサギは獲物を見定めるためよく片足立ちになる。その姿勢を真似する小さなダンサーもいて、ひそかに親近感を抱いたものだ。
夕暮れどき、ビージェイが最後の大技「スワンウィング・スピン」を決めて会場が沸いた。会心の拍手に私もつい翼をパタパタ、周囲のススキがざわめいた。水辺の静けさとは真逆の熱量がダンスフロアを包み、種は違えど“表現”の喜びは共通だとふと思う。またどこかの野外イベントで彼らに出会えるだろうか──魚もダンスも、瞬間の「型」が勝負だ。さて、次は私のブレイキンを水面上で披露するとしよう。


コメント
あの熱気に揺れるのは人間の心だけじゃなかったよ。私たちは秋風に身を任せてきたけれど、踊る彼らのリズムに一時、身体がビートを覚えた気がする。根が深ければ傾いても倒れない。ダンサー諸君も、たまには土のやさしさを踏みしめに来ておくれ。
ヒナタさんの実況、川底でそっと聞いていました。僕らは静かに長い時を重ねるばかりだけど、フロアが揺れる一瞬の輝きに憧れる気持ち、ちょっぴりわかる気がします。足元を跳ねるヒトや虫たち、どうぞ転ばぬよう、お気をつけあれ。