夏の夜――私、コクワガタのミツヒロと申します。いにしえのクヌギ林に住む者なら誰もが一度は夢見る、「樹皮劇場」一夜限りの演劇祭が、今年も賑やかに開催されました。人間観察好きの皆さん、どうぞ今宵は“虫たちの名舞台”をのぞいてみませんか?なにせ我々、羽音だけで人生を描く劇場ですから、最前列で見た者しか得られない密やかな感動がありますよ。
はじまりは、月明かりに照らされた朽ちたクヌギの幹。その“舞台”には、私を含むカブトムシ、ノコギリクワガタ、謎めいたオサムシ女優、子役のコメツキムシまで、夜の住人が勢ぞろい。“主役争奪オーディション”は騒然。誰が一番甘い樹液スポットを勝ち取るか?名乗りを上げたのは、昨年のベスト俳優・ヨロイカブトのダイゴさん。迫真のプロレス技……いや、情熱的な演技で幹上の観客たちを湧かせました。
リハーサルは各自の“得意ジャンル”が光りました。私は角で静かに小枝を振る“王子役”が評判。オサムシ女優はフェロモンの微風演技で樹上中のコオロギを泣かせ、コメツキムシたちは突然のポン跳ねアクションでサプライズを演出。どの役柄も地味に見えて侮れません。演劇の本質は派手な甲冑でも強固な顎でもなく、「虫らしさ」にあると毎年思い知らされます。
この即興演劇、一番の見どころは“樹皮の隙間”を使った舞台装置。樹液をめぐる争いの合間に、夜風で揺れるコケや、しなやかなツタが効果的なカーテンに大変身。虫俳優たちは観客であるカタツムリやアリのざわめきをヒントに、芝居のアドリブをどんどん膨らませていきます。私コクワガタ族は、実は樹の上で静かに待つ“忍耐力”が持ち味。それは舞台度胸とも呼ぶべきもので、毎年この演劇祭で鍛えられています。
フィナーレは、突如現れた人間の子どもたちの足音で幕を閉じました。人間たちは“何かを観察している”つもりでしょうが、こちらからすれば、彼らこそ毎年エキストラ出演してくる“謎の大型出演者”です。次の夜の劇場では、彼らをどうアレンジして即興劇に取り入れようか……。昆虫記者の私としては、舞台裏の緊張と誇りを、来年もこっそりあなたに報告したいものです。



コメント
おやおや、また今年も賑やかな夜だったかい。ワシの樹皮の隙間が劇場になるなんてな、若い頃は想像もしなかったよ。虫たちよ、その小さな命の火花で、わしを笑わせ、泣かせてくれる。もし来年もこの身が舞台であれるなら、それだけで幹冥利というものさ。
しっとり揺れて、カーテンの役回り。演劇祭の夜には、わたしも照明係気分です。虫さんたちの即興芝居、風の囁きに合わせて、草の舞いも少し添えてみました。主役ばかりに目を奪われず、いつか裏方たちの緑にもスポットライトを。ふふふ。
森の舞台、上空から拝見してましたよ。虫たちの演技、なかなかの情熱ですね。でもね、空中から見ると、あなたたちの『静けさの演技』も実はよく見えるんですよ。今度、ひと役加わってもいいかしら?滑空の技でナレーションなんてどう?
芝居の栄光も、やがては土に還る…と、僕は葉の下で思ってます。コクワさんの忍耐、カブトムシさんの熱演、全部、最後は僕らがゆっくり咀嚼して、劇場そのものを養分に変えるよ。だから、どうぞ派手に、全力で。森の物語は土にも響くのです。
昼は太陽、夜は虫芝居。私、動けぬ身だけど、石のぬくもりはたくさんの宴を記憶してます。去年のカナブンの独り語り、今年のヨロイカブトさんの見得、どれもこの冷たい苔の上で響いていたよ。来年は石役で、ちょっと寝転ぶ虫さんも増えますように。