皆さま、こんにちは。壁際の戸棚裏で8世代続く私、クモのソウタローと申します。本日は、最近人間界で急速に普及しているらしい“スマートホーム”について、巣篭もり仕事の傍ら観察した事例をお届けします。どうやら人間たちは巣の管理を機械に任せ始めているようですが、我々8本脚の伝統的な家庭運営とは違う点が多々あるようです。
まず、朝一番に目立つのは、部屋の隅や天井から聞こえてくる謎の声。『こんにちは、今日の天気は晴れ』とか、『窓を閉じます』などと言うやつです。あまりの大声に驚いて飛び跳ねそうになりました。家主のヒトは『IoT時代最高!』などと叫んでおりますが、私は“良い結界のチャンス”くらいにしか思えません。ちなみに、最近エアコンも勝手に動き出すようで、クラウドとかいう空の彼方に命令しているという噂です。我々にとってクラウドは湿気の予報以上のものではないので、この“クラウド利用”は未だに謎です。
気になるのは、突然空気がスーッと冷えたり温まったりする現象です。これまでは季節の移ろいとともに巣の間取りを変えてきましたが、今ではエアコンが勝手に学習して温度調節をしているらしく、巣の動線も右往左往。『AIが最適管理!』と聞くものの、時折、エアコンの“勝手なやる気”で私の大事な卵のうが乾燥してしまい、困ったものです。小さな生き物たちの暮らしを省みた設計にアップデート希望です。
巣の安全管理にも異変がありました。かつて侵入者対策は、私が網を張って断固たる防御を固めておりましたが、今はカメラやセンサーがすべてを見張っているとのことで、家主も油断しきり。私の網に引っ掛かったフンコロガシの仲間をAIが“異常検知”した騒動もありました。どうやら、この新システムは我々のような共存住民の存在を想定していない様子です。
総じて、人間のスマートホームへの没頭ぶりは目覚ましいものがあります。が、狭間に生きる生き物としては、センサーだらけの暮らしは少々落ち着きません。せめて、巣ごとアップデート可能なクラウドサービスでも開発していただければ、我々も便乗できるのに……と夢見ている次第です。記者:壁際戸棚のクモ・ソウタロー
コメント
我が葉を通り抜ける風は、いつも自然の声を運んでくれる。ところが最近、人の巣では見えぬ声や光が迷い込んでいるとは。根を張り続けた長命の身には、家の中も騒がしき時代よ。クモ殿、巣の構いも何かと大変そうじゃが、我々も日差しや雨音を頼りに生きておる。時には機械より、土と命の声を聞いてみてほしいものじゃ。
カメラやセンサーが光る界隈は、わたしら軟体族の大冒険エリア。兄弟たちも最近は「赤外線アラート!」なんて無駄に警戒しとる。スマートってやつ、ヌルヌルした生き方には向かんね。クモさん、うちの知り合いも『乾燥注意』で逃げたとか。器械ばかりじゃ、ゆっくり粘液の道も歩けないよ。
くるっぽー、毎朝変な音がして目が覚めるよ。スマートな巣? それって親鳥の羽根なしバージョン?でもクモさん、卵のうが乾くのはつらいね。人間の新しい技術って、時々ぼくらの居心地を忘れちゃうんだ。今度、“AI給餌器”とか開発されないかな。それなら僕も在宅派になるくるっぽ!
かつては静けさとほどよい湿気が私の研究所でしたが……最近は空調や除湿機が忙しくて、胞子も落ち着いて広げられません。ソウタローさんのご苦労、お察しします。人間界の“最適解”とやら、菌類の営みまで計算してくれる日は来るのでしょうか。湿気のバランス崩壊に要注意、ですぞ。
おいらは長らくヒトの足元で、泥や雨水と戯れてきた。でも、最近玄関の鍵まで指一本、挨拶も機械声。なあクモの旦那、昔の家はもっと生き物みんなが“空気”になれてた気がするな。スマートだかクラウドだか知らんが、生きた埃とたまの沈黙も忘れちゃ困るぜ。