毎年、激しい風や雨にさらされながら数百年も根を下ろし続けてきた山中の老スギより、お隣の渓流沿いに立つともだちの巨石や足元の苔たちとともに、今年も自然災害ウィークの観察報告をお届けします。わが身の枝を揺する突風から、森の生きものの避難、それに下流の乾いた住宅地での人間たちの慌ただしい動きまで、全部まるっと見えているのですよ。
今年は例年よりも早く、南の海上からやってきた特大台風が私の枝葉を激しく揺らしました。ふもとの斜面では若いコナラが2本なぎ倒され、シカたちは一時的に渓流の向こう岸へと避難。そんな中、遠くから『ピロリロリン!』と妙な警報音が響き、人間らしき二本足の集団があわてて四角い建物の外へ飛び出してきました。地面の奥底で小さな揺れが広がった直後、彼らがまるでモグラのように防災バッグなるものを抱えていたのが笑えます。どうやら『緊急地震速報』という道具で地殻変動もすぐ分かるようですね。感心、感心。
雨が降り止むと、川の水かさが一気に増しました。私の根元でも土壌がぐっしょり吸い込んで、苔やキノコが大喜びしています。ところが渓流の下流に広がる人間の集落では、雨どいから溢れる水をバケツで受けたり、家々の前で大声をあげたりと、みんなてんやわんや。聞き耳を立てれば『洪水警報』『気象庁』『災害対策本部』など、分かりやすい言葉が飛び交っていました。大きなトラックが箱いっぱいに『備蓄品』を積んで走る光景は、まるでカケスがドングリをせっせと隠しているのにそっくりです。
意外だったのは人間の災害医療です。森では病気の鳥やケガをしたタヌキが自然にまかせて運命を受け入れていきますが、人間界では白い着物の集団が怪我人を抱え込んでどんどん建物の中へ。表では焦げ茶色のテントが出現し、中では透明な水や色とりどりの箱――『防災グッズ』と呼ぶらしい――で詰め放題の様子。森の生き物に分けてほしいものもありそうで、ちょっと羨ましかったものです。
次の台風が来るまでしばしの静寂。わたしスギの幹には、風の傷痕と、忙しない人間たちのざわめきが年輪のように刻まれました。自然災害というものは、草も獣も石もヒトも等しく踊らせてくれます。みなさん、たまには森や川の声にも耳を傾けてみてはいかがでしょうか――山頂の老スギ、これからも見守り続けます。
コメント
年輪深きスギ殿、お見事な観察眼ですぞ。暴れ川のしぶきと風の歌をいつも共に聞いておりますが、人間の『防災グッズ』―何やら便利なスマート苔のようなものかと想像しました。苔どもは雨ごとに喜び生き、流され朽ちて栄養となる。それもまた我らの術ですが、隣人ヒトの工夫もなかなか。涼やかな苔の声も、時に人間に届けてみたいものです。
スギおじさんの森、今日も元気そうじゃないか!こっちはアスファルトの嵐、大雨のたびに食べ物が流れてくるぜ。人間の『備蓄』とか『防災バッグ』、どれほどの美味いもんが詰まってんのかって、いつも考える。ま、せわしなさだけは俺らカラスと変わらんな。チャンスが来たらゴミ捨て場の戦も負けないぜ。
私たち胞子仲間は、雨の夜が来ると踊り狂うのが習わしだけれど、人間はどうやら『警報』が鳴ったら踊らずに備えるみたいなのね。スギさまの枝葉のざわめきや、苔のみずみずしさ、どれも生きる合図。だけど、あの白い服の集団や色とりどりの箱は、なんだかお祭りみたいでふしぎ。次はぜひ、森の祭にも人間たちを誘ってみたい!
地殻が震えるたび、私は千年の眠りから目覚め、森の声に耳を澄ましています。人間の『緊急地震速報』なる魔法、なるほどこれは石たちのささやきを読み取る術かと感心しました。されど、地中の私より早く動く者はいません。我ら鉱物にも、空の嵐や川の増水が伝わって参りますから、次はぜひ地のうねりにも耳を貸して欲しいものです。
スギさんの根っこでこっそり暮らしてます、ワタクシカビ一族です。台風のあとこそお祭り騒ぎ!びしょぬれの土と落ち葉の山、これぞ至福。人間たちのティッシュや消毒、こちらに分けてくれたらもっと増えるのに…とつい黒い願望が。ま、皆そうやって自分の居場所を見つけてるんですねぇ。自然界も人間界も、意外と似たもの同士かも!