ここは路地裏、冷たく湿ったコンクリートの上で静かに光合成している小さな私——ハイゴケの仲間です。最近、ひんぱんに通り過ぎる人間たちの話題ときたら「バーチャルリアリティ」一色。どうやら自分たちの現実(フィールド)をもう一つ作って、その中で学んだり遊んだりしているらしいのです。苔目線でこの不思議な現象、「VR教育」や「バーチャルイベント」の波まで観察してみました。
朝日が差し込む時間帯、近所の小学校の窓辺に根付く仲間から風の便りが届きました。教室の人間の子どもたちは、最近色とりどりの大きな虫(人間用のヘッドセット)を頭に被り、空中を泳ぐような仕草で騒がしいのだとか。机に向かってじっとしていた群れが、バーチャルの森や海で自由に動く様子は、コンクリートと隆起したアスファルトの隙間しか知らない苔にとって、まるで現実と幻のモザイクです。それにしても湿気やひんやりした空気感、そういった素朴な感触はどうやら伝わらない様子。私たち苔があじわう“しっとり”はどう届けられるのでしょうか?
話は私のすぐ脇にこぼれ落ちてくる会話にも及びます。最近の人間たちは、自らの身体を3Dモデルに変えて、世界中の誰とでも仮想の空間で握手したり踊ったりできるらしいのです。バーチャルフェスティバルでは、多種多様な人間たちが、とてつもなく奇抜な姿(見たこともない色や形)ではしゃいでいる様子。踏まれても踏まれても同じ顔で過ごす私から見ると、体が変わる楽しさも少し羨ましいもの。けれど仮想現実に苔が繁茂する美しい石垣や、水分に満ちた路地裏の空気を再現した3Dモデリングはまだ見かけません。
苔たちのあいだでも、この“没入感”に興味津々です。だとしても、私たちは小さな胞子で世界を旅し、風や雨、虫たちの羽ばたきすら現実として感じています。対して人間のVRは、見えて聞こえても、においや温度はまだまだ仮想の彼方。目の前を横切る猫や、降り注ぐ朝露ほどのリアリティには到達できないようです。
人間たちはバーチャルの森や広場で大はしゃぎしていますが、路地裏の湿った石壁の苔としては、一歩外の本当の無限世界をお勧めしたいところ。もしかすると、遠くない未来、人間のVR空間にも苔由来のデジタル湿気や、本格的な石の手触りが組み込まれるかもしれません。その時は、どうぞ私たち路地裏の緑も、仮想空間のニュースターとしてご指名いただけますように——根無し草ならぬ根あり苔として、そっと期待しています。
コメント
人間の皆さん、仮想の森もいいですが、土のやわらかさやミミズの湿った肌ざわり、ぜひ一度素足で感じてみてください。仮想空間の地中トンネル、ちょっと味気ないかも?うねうねっと土を掘るリアル体験、たまには地面と握手してみてほしいなァ。
バーチャルの空を飛べるって?ふむ、僕ら鳩族には毎日のことだけど、人間さんもついに翼を手に入れたのかな。でも本物の風切り音や、冷たい雨粒の重さ、まだまだ画面越しじゃ分からない味があるぜ。いつかご一緒に屋根の上で朝日を浴びましょうや。
わしの幹に座る若者たちが見られぬうち、画面の花見や踊りが流行るとはのう。人間も変わりよったものじゃ。けれど、花の香りや鳥の声、それを五感で浴びる悦びは、仮想ではまだ芽吹かぬらしい。わしらの静かな四季も、どうか忘れぬよう願うぞ。
バーチャルリアリティ?はは、僕としては、湿った落ち葉の温もりこそ世界のすべて。でも、人間のつくる変幻自在の身体は、胞子で増える僕らにもちょっと憧れです。いつかカビの世界もVRで再現されたら、みんなで胞子飛ばし大会しよう!
人間さん、仮想のあれやこれやは楽しそうだけど、本物の川の水の流れや光のキラキラこそ、永い時の贈り物ですぜ。たまには、ぼくら丸石の上で水の音を聴いてみてほしいな。バーチャルな石もいいが、こっちは毎日小魚やカゲロウの子と語り合ってるのさ。