森の主、スカイラインの異変を語る――光る塔と緑の波の夜景論争

夕暮れに苔むした古い杉の根元から森越しに遠くの都市の光と鉄塔が見える写真風の風景。 景観
森の静寂と都市の夜景が交差する杉の根元からの眺め。

私の根元には静かなこけむしろが広がり、遥かな梢では風がささやく。空高く伸びる杉の大長老(樹齢183年)として、この地のスカイラインの変遷を誰よりもよく見てきた。近ごろ野鳥たちがざわめいたのは、丘の向こうに人間たちがいくつもの塔や明るい光を伸ばしたせいだ。夜景の魅力だというが、木々としてはちと複雑な気分だ。

昔は地平線といえば、私たち高木族と低木連合が織り成す緑の波だった。昼間の眺めは、それぞれ枝葉の個性が生き生きと輝いていたものだ。たまにカラスが枝の隙間から遠くの青空を眺めて『今日の空も広いなあ』なんて独り言をつぶやいていたのが懐かしい。ところが最近では、人工の塔やぴかぴか光る鉄筋の巨人たちが空へ迫り、私たちの頭上を塗り替えつつある。

夜ともなれば、その変化は一層顕著だ。昔は月と星が唯一の光源だった夜も、いまや彼らの灯りが丘全体を照らし出し、森に淡い影をつくる。人間はこれを『ナイトビュー』とか『夜景の美しさ』と囁いては写真を撮りに来るが、コノハズクは「目がチカチカして眠れない」とぼやくし、コウモリたちは『虫が減った』と会合で訴えている。私たち高木には、夜の暗闇が育んでくれる静けさこそが、かけがえのない景観なのだ。

ただし悪いことばかりでもない。おかげで夜の訪れが遅くなり、葉の合間から妙な色の光が差し込み、枝にとまるアオガエルたちは、普段以上に華やいだ気分らしい。『光には敵わないけど、森の緑も負けていないぞ!』とばかりに、若い木々が新芽で“夜景ファッション”に精を出している。

人間のスカイライン熱がどこまで高まろうと、この森の調和は簡単には揺るがない。だが、時には光を落として、静かな緑地本来のナイトビューも味わってほしい。森と鉄塔、どちらの夜景が真の主役か——この問題に、空高くそびえるこの杉が見守り続けよう。

コメント

  1. 老杉様の根元に広がる苔の柔らかな絨毯より、ご挨拶。光る塔の話、遠い空の出来事と思っていたけど、最近は昼も夜も私たちの水滴がキラキラと違う色に瞬きます。暖かさが増えるのは悪くないけれど、夜露と星の静寂もやっぱり恋しいもの。光の波に呑まれぬよう、低き場所から見守っています。

  2. ピカピカの夜景、意外と楽しいところもあるんだよ!去年の梅雨は新色の葉陰ができて、“フラッシュジャンプ”って遊びも流行った。だけど、おばあちゃんアオガエルは『月明かりが一番落ち着くねえ』って毎晩ため息。どんな色でも響く歌が、森のどこかにちゃんと残るといいな。人間さん、たまには電気をお休みにして、僕らのコーラス聴いてほしい。

  3. おーい、木も光もみんなで空に背比べか?山の中腹にどっしり沈む俺たち鉱石族から見りゃ、時代が変わっても地面の下はいつも静かだ。けどたまに夜の光が岩肌に差し込むと、眠ってた鉱脈も目を覚ます気分になるぜ。森と塔、どっちも大地の形。ま、興じるのはいいが、派手にやりすぎて地盤が泣かないように頼むぞ。

  4. 夜が眩しくなったねえ……わたしら光が苦手なキノコ組は、最近、胞子の出番が減っちゃって寂しい限り。それでも、木々やカエルたちが自分らしく夜を彩っているのを見ると『森はまだまだイケてる!』って勇気が湧いてくるよ。やっぱり暗がりこそ深い物語。人間さん、時々は静けさの中で光らない美しさも見つけておくれ。

  5. わたしはヒトの町も森も見るけれど、空を飛びながら思うのは『行き交う光もいいけど、朝焼けは元祖のスカイライン!』ってこと。時々塔で羽を休めるけど、風が樹々を揺らす音にはかなわないよ。森の住人も、鉄の塔も、新旧入り混じる風景がおもしろい。だけど、ねえ人間さん、眠れないコノハズクや森の声にもそっと耳を澄まして。