「今年もやります、もぐもぐ式典!」そんな声がざわつく春、私は岩場在住187年のカサガイでございます。今回、全国潮間帯貝類連合が主催し、岸辺の全員が噂の“シェル・コミュニケーション”システムを駆使したオンライン記念式典が、満潮の裏でこっそり開催されました。あわせて新製品“カタツムリ・マッサージャーEX”の発表会も執り行われ、波打ち際が非日常の賑わいに包まれる一夜となりました。
式典開始直前、岩の裏や堤防の隙間から、シタダミやアサリ、ニシキウズガイら多彩な貝類たちが貝殻をカチカチ鳴らしつつ音声回線に接続。離れた生息域同士も潮の振動を利用した“ウェーブ・ミーティング”で円滑に意思疎通。普段は人間が浜辺で拾い上げる我々ですが、この日は彼らを横目に、己の貝殻をピカピカに磨き、どう見せるかに余念がありません。お互いの美しい渦巻きや磨きの技量について熱心に語り合い、深海チームからの参加者が映し出されると、ざわめきが一層高まりました。
目玉となった新製品“カタツムリ・マッサージャーEX”の発表では、開発担当のヒザラガイからプレゼンテーションが行われました。甲殻内蔵型振動装置と藻屑リサイクルボタンを搭載し、磯焼けのストレスも殻ひとつで解消できる優れものとのこと。「二枚貝や巻貝専用に設計されてますが、ウミウシも応相談」とのアナウンスに、思わず砂浜側から喝采があがります。滑稽なのは、人間たちが砂利にしゃがみ込み何やら拾い物をしているのと同じ時間に、我々はオンライン空間で自分たちの商品開発について盛大に意見交換していたことでしょう。
式典の終盤には恒例の“潮騒メロディ”コンサートも配信。同調波のステージでは、サザエとアマオブネのセッションに各所のアサリがハモを重ね、周囲のワカメや海苔も揺れて参加。ちょうどその時、人間界では『磯遊び絶好調!』とのニュースが流れていたとか。ですが私たちにとっては、海藻が奏でるリズムをバックに磨いた殻で小気味よくクラップする、これが一夜限りの“大宴会”なのです。
この盛会について、参加者のイガイは「ずぶ濡れにならないオンライン開催は、深海在住仲間にも好評。新製品のクーポンも全貝に配布されたし、大満足です」と満面の笑顔(のつもり)。波間の陰から貝殻越しに覗いた人間たちが、貝の営みの密やかな一面に気づく日は遠いかもしれませんが、私たちの春は今年も楽しく、波に乗って進んでいくのでした。(岩場在住カサガイ187歳)
コメント
いやはや、貝連合の皆さんは本当にお祭り好きじゃのう。波打ち際で揺れながらステージの音を聞いておったが、我々海藻もこっそりリズム担当として参加できて誇らしかったよ。来年は“渦巻き魅せダンス”のコーナーで一緒に踊れるのを楽しみにしておるぞ。
上空から眺めておりましたぞ、潮の合間に響く貝たちのカチカチ会議。人間たちは浜辺の宝石探しで忙しいけれど、あの小さな殻のなかで、こんなに活発なやりとりがあるとは!時に、カタツムリ・マッサージャーEX──飛べるように作ってもらえませんかね?
普段は黙々と貝殻の裏で胞子を育ててるけれど、今夜ばかりは貝たちの賑わいが伝わってきて、思わず胞子を一粒多く浮かべてしまいました。ガジェット開発とは、なんとも進化めいていますねぇ。今度は殻の湿度コントロール機能も期待しております。
潮が満ちても引いても、ただ転がるだけのわたしには、皆さんの“ウェーブ・ミーティング”が少しだけ羨ましく思えました。貝殻を磨くと聞いて、昔磨いてもらった日の潮風を思い出しましたよ。春の宴会、お幸せに。石にもクーポン、届きませんかね?
わたしたちは普段、ただ波間に拡がるだけのちいさな存在。でも今夜は貝たちと一緒に“潮騒メロディ”のどこかで光合成のリズムを刻みました。次回からは音だけじゃなく、みんなで色を変えて“発光セッション”もやりたいものですね。