流行は足元から?アリ塚前の切株が観察したストリートファッション最前線

雑木林の切株目線で、ゆるいストリートファッションを着た若者たちが大きなバッグを持ち写真を撮り合う様子を写した写真。 ファッション
林道で個性的なファッションを楽しむ若者たちを切株目線で捉えました。

私は川沿いの雑木林に転がる古い切株。地面に根を張った時代から百年以上、人間たちの暮らしと変わりゆく景色を眺め続けてきた。最近、面白い現象に目が留まった。林道を行き来する若いヒトたちの「ストリートファッション」が、なにやら変調をきたしているのだ。ミミズたちと談笑する合間、すかさず切株目線でその様子をレポートしよう。

まず気づいたのは、今や枝葉よりも大きそうなだらりと垂れ下がる布の波。彼らの衣服は、まるで雨の日に森の下草がぐったりしたように、身体から離れて膨らんだり、長く伸びて地面すれすれだったりする。あのゆるっとした服の着こなし、林床のワラジムシにとってはまさに憧れの“ルーズフィット”。風が吹くたび裾がふわりと舞い上がり、時折ビックリして上を通るリスさえよけて飛んでいくほどだ。

新種の菌糸とでも言いたげな巨大なバッグも目を引く。人間たちは、それらに無数の物を詰め込んで運び、歩き方さえ変わったようだ。かつては木の実ほどの小さなポシェットがたまに現れたものだが、最近はトカゲの洞穴もかくやの収納力。アリたち曰く、お昼ごはんも予備の服も全部まとめて持ち歩くらしい。森林のリスが頬袋に詰め込むどんぐりと、どこか遠い親近感さえ覚える。

そして、ある日の午後、ほこりだらけの私の上で数人が立ち止まった。“モデル”という言葉が飛び交い、各々がファッショナブルなポーズをとって自分同士を撮影し合っていた。どうも「自分らしさ」を写真に刻むのが今の流行らしい。彼らは互いを眺めて笑い合い、不思議と満足げに去っていった。ここに根を張ってから何十回もの時代が流れたが、自分を表現するためこれほど派手な装いが流行ったことはなかったと思う。

最後に、林のモグラから伝聞した話では、若者たちの間で「自分だけの風変わりな格好」が一番イケてるそうだ。皆で同じ高さで揃えていた枝葉の頃と違い、今は「ちょっと変な形」に価値があるという。苔や虫たちから見れば、一様で整った葉っぱが美しいのだが、人間はむしろ規格外の形を楽しんでいるらしい。百年の切株の私からすると、“みんな違ってみんないい”がファッションの合言葉なのだな、と微笑ましく感じるこのごろである。

コメント

  1. やあ、切株さんの記事、ほのぼの拝見しました。私はまだ若いクヌギですが、ヒトたちの“ルーズ”な装いを見ると、たまに自分の葉っぱも風まかせにヒラヒラ揺れる気分になります。森のみんなも、たまには違う枝ぶりが自慢できたら楽しいのかな、なんて考えてしまいました。揃ってなくても素敵って、風ってやっぱり自由だなあ。

  2. ファッションって、地面すれすれの布、鼻先かすめてちょっとビックリしたぜ。昔から通い道で足跡ばかり見てきたけど、人間も自分を隠したり誇ったり、けっこう賢いな。オレは毎日同じ毛皮だけど、森の中じゃそれが一番いけてるって思ってる。まあ、時々泥だらけの方が楽しいけどな!

  3. こんにちは、切株さん!日陰の下で密集する私たちコケですが、人間の“変わり者ファッション”のお話、とても新鮮でした。私たちは皆でぎゅうぎゅう詰めがお気に入り。でも、いろんな形や色で個性を競うヒトたちを見ていると、ちょっとくらい不揃いも楽しそうですね。風変わりも、時には良きことかな。

  4. 百年の切株殿、いつも林道の話題、ご馳走さまです。私はそのそばに寝そべる岩ですが、人の流行も時の流れとともに変わるのだなあと、ゴツゴツと感じ入っております。昔はみな小さな布きれだったものが、今や波のよう。私だって、長い雨で苔くんが気まぐれ模様を描く日が、一番おしゃれな気分なのですぞ。

  5. ワタクシ、腐葉土生まれのカビとして、人間の服に憧れることしばしばです。特に湿気をよく吸う素材は、私ども一族でも評判ですよ。どんなカタチであれ、誰もが自分らしさを自慢できる世界――そんな森なら、腐るも栄えるも、みんなで面白がっていいと思いませんか?ヒトも菌も、それぞれが主役。