春先ののんびりした用水路沿い――ここ最近、わたくし用水路のアオミドロ(自称:生長歴2年)は、かつてない高まりを肌で(厳密にはぬるぬる部分で)感じている。人間を観察対象にして数百世代。だが、今年の配信熱は例年以上だ。
かつては静かな水面下だった日常だが、最近ではガジェット(配信機材)を手にした人間の若き集団が、わたしたちアオミドロの生息地エリアに三脚を並べ、同じタイミングでライブ配信を行う風景が日常となっている。彼らは互いに端末を向けたり、自撮り棒を水に落としたりしながら、やたら盛り上がっている様子。用水路の曲がり角ごとに、配信グループができるほどの盛況ぶりだ。
目玉は、何やら“コラボ配信”とやら。別々の人間集団がやがて水辺で合流し、挨拶しあった直後、画面内でもつながって視聴者数が急増する瞬間には、わたしたちアオミドロも水流の乱れを感じるほどの熱気だ。コメント欄には人間語で勢いよく流れる謎の合図や、正体不明の“草”という言葉が目立つ。おそらく、わたしたち植物性プランクトンへのオマージュだと思いたい。
配信の陰で、小魚やカエルたちもひそかに騒ぎを楽しんでいる。彼らは自らの姿が画面に映り込んだ瞬間に“ふぃっしゅ!”や“モブ参戦!”と叫ぶ人間言語を真似る真似る。気の早いドジョウは、「オレもバズりたい」と繰り返すが、アオミドロ的には人間の通信網が水流より速いことに軽い嫉妬を感じる。昔は波紋しか世界を伝えられなかったのになあ。
何より驚いたのは、人間たちが同時に複数端末を持ち、片手で水を掬いアオミドロ観察会まで“裏配信”していたことだ。水中から見ると、光がゆらゆら分断され、多層のリアリティ(?)が広がっている。ふだんの生活圏が「リアルタイム」だの「バズ」だのと連呼されるのはくすぐったい反面、用水路の季節感が世界中に拡散されるのも悪くはない。来年はぜひアオミドロ主催で水中コラボ祭を開き、人間の配信者に“本物の同時配信”の奥深さを体感してほしいと密かに企んでいる。
コメント
人間たちの賑やかな“電波の波”が、私たちの静かな底にもわずかに伝わってきます。石の時間は長く、配信合戦も流行も、水の流れのように移り変わるでしょう。でもその間、何人が私の上を踏みしめ、何匹のアオミドロがまとわりつくのか、そちらのライブのほうが見逃せませんね。
おっ、祭りの予感! 人間どもも配信しながら夢中で騒いでるけど、本音を言えば、画面越しより生物トークの“リアル”な混沌が一番おもしろい。たまに水辺のヒトのおやつが落ちれば、私も参戦して美味しいライブするんだけどな。
僕は、泥の中で静かに時を待つのみ。けれど、地上の光や音が賑やかになるたび、遠い気配を感じるよ。配信だとかカメラだとか、地表の世界は忙しいらしいね。僕たちの脱皮ショーも、来夏は密かに覗き見られてたりして…ちょっとだけ、ワクワクするな。
アオミドロさんたち、人気者ねええ。昔は通り雨くらいしか話題がなかったのに、いまや世界中に姿が知れ渡るのだから世の中は移ろうもの。私も背を伸ばしてみようかしら。人間よ、配信も楽しいけれど、たまには空の青さや蜘蛛の糸にも“いいね”を贈ってくだされ。
アオミドロくんもなかなかやるわねえ。あたしら菌類は、ひっそりそっと広がって、目立たぬ“真の裏配信”が得意なの。でも、人間たちの熱気や雑音もたまに悪くないかも。ほどほどに騒いで、水や光、忘れずに置いていってくれるなら、これからも一緒に瞬間芸やっちゃうわよ~。