都市のたんぽぽ群、VR RPGプレイヤー観察で大騒動――花粉会議、熱視線

歩道脇のたんぽぽ越しに、空き地でVRヘッドセットを着けた人々が腕を振っている様子が写る写真。 ゲーム
道路脇から観察される、VRゲームに夢中な人々と咲き誇るたんぽぽたち。

歩道脇の僕たちたんぽぽが今年も花粉会議を開いている最中、突如として隣の空き地に集う人間たちの、奇怪な頭部装置付き集団に目を奪われてしまった。彼らはどうやら何やら見えない世界で壮絶な戦いを繰り広げているらしく、空間に向かって剣を振ったり、素手で空を抱きしめたり、興奮の叫びをあげたりしていた。「またゲームでしょ」と通りすがりのスズメがぼやくが、どうやらこれは次世代の“VR RPG”とのこと。早速、たんぽぽ組合代表(根長38cm)が観察記録を発表する運びとなった。

この人間たち、ふだんは画面を手でつつくだけのスマホゲームばかりに夢中なのに、今日はなぜこんなにも暴れまわっているのか?都市のたんぽぽからすると、じっと太陽と向き合う生き方が一番だが、VRヘッドセットで仮想の草原を駆け回る姿は正直、少し羨ましくも感じる。風もないのによろけて転ぶ若者、片手で無意味に空気をかき混ぜる中年、観察しているだけで花粉がむずむずしてしまう!

調査のため、人間の落としたフライヤーを回収してみた。どうやら、「シーズンパス」の購買や「eスポーツトーナメント」出場が彼らの目標らしい。『リアル感重視!フレンドと協力バトル!』と巨大な文字。他のたんぽぽに内容を説明するが、花粉仲間の高齢株(推定樹齢5年)が、「協力」とは並んで日光を受けることだと考えているため、少々混乱が広がる。

観察中、ひときわ大きな歓声が。どうやらボスを倒したようだと隣のカラスが解説してくれた。ゲームの中で勇者、街なかで騎士気取りの人間たちが、クリア報酬で“限定スキン”という謎の飾りを手に入れては、現実空間でもドヤ顔を隠しきれない様子だ。「私たちが今まさにばらまいている花粉も、春限定のスキンだ」と若いたんぽぽが自信満々に語ったが、人間たちは無視するばかりで…ちょっぴりしょんぼり。

都市の歩道を根深く守りつつ、人間たちがどんな新たな遊び道具や仲間を持ち込もうとも、こちらたんぽぽ一同はこれからも、変わらず空を見上げて花と花粉を広げていく所存。VR世界の冒険者たちよ、今度は現実の空き地の冒険にも目を向けてほしいものだ。歩道脇のたんぽぽ(地上部長さ26cm)が、黄色い花びらで今日も人間観察中。

コメント

  1. ふん…また新しい騒ぎかと思えば、今度は人間たちが見えぬ何かと戦ってるのかい。静かに水の流れを追うこの身には、そんな空振りすら風流さ。だが隣で派手に転ばれちゃタネもたまらんさね。日陰に寝そべる私らも、たまにはゲームしてみたいよ――“湿原レース”とか。タネの皆、お祭り騒ぎは足元注意だよ。

  2. 人間たちの動きはいつも理解不能だけど、今日は一段と変だったなァ。空振りしてる割に、妙に満足げな顔で盛り上がってるのが笑えるぜ。オレたちゃ毎日リアルバトル(しかもエサ争奪戦付き)なのに、画面の中でもっと強くなりたいもんかね?けどまあ、落ちるパンの数が増えるなら大歓迎。派手にやってくれよ!

  3. あはは、現実と仮想の狭間で踊る人間たちよ。私は濡れた落ち葉の上で黙々と胞子をまくが、君らは見えぬ敵と戦い、見えぬ仲間と協力するらしい。ともあれ、“限定スキン”だの“報酬”だの…菌類界にも流行りそうで困る。今春はワタシも“濡れ艶スキン”でデビューかしら。

  4. 地表に這い出て久しき我――幾多の季節を見てきたが、人の遊戯心は果てがない。仮想の草原を走る姿、愉快やら不思議やら…だが現実の苔や蟻たちの息遣いはいかほど届いておろうか。たまにはわが表面に腰掛けて、風と石の時間を感じてみるがよい。そうして己の場所を見つける者も、昔は多かったものだ。

  5. うちの葉っぱにも一枚くらい“限定スキン”ほしいデスネ!お日様チャージverとか。そちらのたんぽぽさん達、今日も元気そうでうらやましい。人間さん達、いっぱい遊んだらちゃんと水も撒いてね。根っこで“リアル協力バトル”いつでも受けて立ちますよ?