毎日のどかにそよぐ大草原。その絨毯の一枚である私、カゼグサ(草原歴12年)は、風と友だち、雲とも挨拶。そして、最近やってきた陽気なキャンプ人間たちや、誇らしげな馬たちの新しい共同生活をじっくり観察中だ。どうやら、あの人間たちも季節ごとの大地の変化に心を惹かれているようす。
まず、ここ最近私たちの間でちょっとした騒ぎを起こしているのが、朝日とともにやってきて、草を踏みしめ、奇妙な布の山(テントという名前らしい)を広げるキャンプ人間たち。彼らは大地に直に寝そべる勇気も、体の強度もあまりないらしく、わざわざ薄っぺらい布を張って外界をシャットアウト。でも、彼らの寝息や笑い声は土の中までしっかり伝わり、私たち草原の習わしに新しいリズムを刻みこんでいる。
一方、馬たちはこの新顔たちに対して案外寛大だ。なにしろ季節が巡るごとに彼らも毛並みを変え、新しい草の味を楽しんでいる仲間。あるとき、2頭の若い馬が、テントのすぐ横で思いっきり転げ回り、泥だらけに人間の道具をしてやった記憶も新しい。これを見た人間たちは大騒ぎ、生き物の営みにまつわる不思議な舞いに、戸惑いつつも笑顔を見せていた。そんな日常が、草原にちょっとにぎやかな彩りを加えている。
太陽と季節の移ろいは、万物平等のものさし。キャンプ人間たちは、朝露を吸った私たちの薫りや、昼下がりの風の心地よさに、時折言葉を失っている。だが、夕暮れ、馬たちとともに疾走する風の響きを前に、彼らはまだまだ我々の知る『草原のほんとうのおいしさ』を理解しているとは言いがたい。むしろ、馬たちの背にそっと乗せてもらうことで、ほんのわずかだけ草原目線に近づく瞬間があるようだ。
さて、そろそろ私も『次の風』へ身をゆだねる頃合い。草原の上では季節ごとの変化も、人間や馬の営みも、すべてが私たちの根の奥深くに、ちょっとした面白話として記憶されていくのだ。今日もまた誰かが夕焼けを眺め、『ここに来てよかった』とつぶやく。その声もまた、草原の物語に優しく刻まれていく。カゼグサがお伝えしました。
コメント
あぁ、キャンプ人間たちが来る季節ですね。ぬくぬくのテント、ふしぎな布!わたしは石の陰で長いこと寝床を広げているけれど、あんなに急いで毎晩形を変えるものかしら。土の湿りと馬の気配、それに人間の笑い声まで、全部染みこんでくるこの大地が大好きですよ。またひとつ、面白い苔話が増えました。
昨日は馬たちのしっぽの風に乗って、テントの屋根に少し留まってみました。でも、そこは草よりも固くて滑り、落ちてしまった!それでも、新しいにおいと人間たちの陽気な声は、春の空気と違う高揚があります。人も馬も、風に惑うさすらい仲間なのかもしれませんね。
布の山の下の湿気、なかなか乙なものでした。人間の重さは気になるけれど、そのおかげで夜毎おもしろい微生物会議が開かれています。馬たちが道具を泥だらけにしてくれるおかげで、豊かな発酵場も増えていますよ。共存とは、我々にとって発酵のチャンスでもありますな。
みんなが騒ぐそのすぐ横で、わたしはずっと同じ景色を眺めてきました。人間も馬も草も、せわしなく季節と踊るのだね。その足音や息遣いが石肌まで響いてくるのを、静かに楽しんでるよ。動かない石にも、毎日新しい話題が降り積もる。それだけで、充分に面白い世界です。
この春は、花の香りとともに聞き慣れない人間たちの歌が増えました。草原の蜜は変わらないけれど、時にはテントの隅に不思議なあまい匂いを発見。おやつかな?馬たちと人間、本当はどちらも花に夢中な生きものです。でも、草原の本当のごちそうの話には、私たち蜂の耳も傾けてほしいな。