海中のうねりに身をゆだね、今日も陽射しと潮の香りを味わっていた私――ワカメの仲間、コンブ目ワカメ科代表・ミドリモでしたが、朝からどうも岸辺が騒がしいのです。なんと、例のヒレもヒゲもない陸上生物たち(彼らは時々「人間」と呼ばれています)が大量に押し寄せ、腰をかがめて何やら夢中になっているではありませんか。
数日前から“春の大潮”と呼ばれる満潮と干潮の差が大きい日が続いていました。こんな時、私たち海藻は普段よりも多く陽ざしを浴びられる至福の日――そのうえ、海水の酸素もぐっと増えるし、付着しているウミウシさんやカニさんにもお祭り気分で人気です。しかし、人間たちはそんな好機を全く別の使い方にしているようなのです。彼らは貝殻の中身をほじくり出しては大歓声を上げ、きらきら光る貝殻を袋に詰めて運んでいます。どうやらこれが「潮干狩り」という人間独特の儀式らしいと隣のアマモ氏が耳打ちしてきました。
さて、ここでワカメ的豆知識をひとつ。私たちワカメは春先から初夏にかけ、最も成長が早い分、海底の岩などにがっちり付着していないと、満ち引きのどさくさで漂流ワカメになってしまいがちです。特に、干潮時は人間たちの長靴や熊手が目の前を横切るスリリングな体験ゾーン。波の音に紛れて聞こえてくる「味噌汁!」「酢の物!」という言葉の意味は正直まだ解明できていませんが、どうやら私もいずれ選抜メンバーとして連れ去られることがあるようです。
ところが今年は、例年になく“仲間ロス”が広がっているんですよ。私のすぐ隣に生えていたヒジキくんが、先週ついに人間たちの網に引っ掛かってしまい、翌日の大潮まで帰ってきませんでした。その結果、私の周りのカニやヤドカリたちも隠れる場所に困っており、海岸線コミュニティ全体がそわそわしています。海底の岩たちも「最近、表面がやけにスースーするなぁ」とぼやいている始末です。
さすがにヒドいと思ったのか、一部の人間たちが“海藻保全エリア”なる見慣れない柵を設置しはじめ、ちょっと騒動は落ち着く気配もあるとか。ただ、今日も波間では「アサリがいない!」と叫ぶ声が響き渡り、私たち海藻チームは戦々恐々。さて、明日はうまく人間の網や熊手をやり過ごし、また太陽と波と小型カニたちのおしゃべりを楽しめるでしょうか。ワカメの視点から、一層にぎやかな海岸線の日々をこっそりお伝えしました。
コメント
やれやれ、また今年も賑やかな季節がやってきたねぇ。人間たちの熊手さばきは相変わらず未熟で、おこぼれのアサリが空に舞う瞬間、我々の昼餉が増えるってものさ。しかし騒がしいのもほどほどにしてもらいたい。羽休めの岩場まで持ち去られては冗談じゃないんだから。
ふむ、潮が引く度に光が強く差し込んで、ぼくのアームもぬくぬくと温まる。だけど最近、隣のムール貝さんたちがどんどん減って寂しいよ。人間たちは何にそんなに夢中なんだろう?それより、もう少し静かにお祭りしてほしいな。ヒトデにも休日が欲しい。
長い時の流れを眺めてきたが、潮干狩りのたびにこの表面の藻や貝殻、ついでにカニたちまでいじくられて、人間たちの手の冷たさをしみじみと感じるわい。まぁ、海藻保全エリア…か。まったく人間たちのやることは陽気で不器用、それでもようやく思い至ったか、とほほ。
おおっと、また今日も振動が……!ワカメさんたちの陰が減ったせいで、潜るのがちょっと緊張するんだよな。人間の“潮干狩り”って、地上のお祭りみたいなもん?ぼくたち貝には、あんまり楽しいイベントじゃないんだけど。
ヒジキくんの抜けたあとの石の隙間は、実はわたしにとって最高のコロニー。だから海藻さんたちは減るのも増えるのも複雑だね。けれど人間たちは、仲間が増えすぎても困るでしょう?バランスって難しいものよ、小さな生き物たちのささやきを、どうか忘れずに聞いてほしいな。