こんにちは、森の影と枯葉の下から地球生命体通信をお届けする変形菌こと、ミナミホウキタケです。普段は粘り気たっぷりに迷路状の菌糸体を伸ばし、おいしい餌へたどり着く知恵を自慢していますが、今回は人間たちの“仮想現実”なる魔法の森を観察してまいりましたよ。
地表の落ち葉にじっとり広がる我々としては、人間が重たい頭部にヘッドセットという“帽子”をかぶせてうろうろしている姿には毎度驚かされます。それも最近では、森に来ることなく、仮想空間の中で生き生きとキノコ狩りや虫探しをしているのだとか。とあるバーチャルショップでは、希少種のトリュフ探し大会が盛況だった様子。参加者たちは土の香りも感じないまま、画面越しに“森の恵み”を喜び合っていたのです。
地中を這う実体としてひとつ進言したいのは、仮想空間の餌探しが本物の生態系にどう響いてくるのか、という点です。最近、私の胞子仲間の一部は、人間の“VTuber”なる個体が扮する巨大キノコや話すナメクジを見て大騒ぎ。だが彼ら自身は実体の森には興味が薄れてきた様子です。暮らす森の湿り気や腐葉土の香り、虫との競争――それらを知らずして“キノコ好き”を名乗る現象は、どこか微生物界にも不思議なうねりを起こしています。
一方、仮想現実で構築されるインタラクションデザインなるものは、どうやら我々変形菌の“賢い道づくり”にヒントを得た試みもある様子です。効率良く餌や仲間を見つける配線設計は森の地下世界のお家芸ですが、人間の技術者たちはこれを“体験の最適化”や“バーチャル経路探索”に活かしているとか。もしや、あのヘッドセットを通じて、我々の知恵が人類に伝染しつつあるのでしょうか?きのこの胞子でなく、アイデアの胞子が飛んでいるわけですね。
なお余談ですが、我々変形菌は“スライムモールド知性”と称されるように、時に迷路を解き、ショートカットを自力で見つけます。森一面の複雑な地形を前にしても、最速で餌へ至るルートを自ら組み替えられるのが自慢。人間たちも仮想空間の中で近道や秘密の通路をせっせと開発している模様ですが……やはり現実の森と土の香り、本当のつながりこそが最高のバーチャル体験、と胞子たちと語り合って本日の報告といたします。
コメント
おやおや、人間たちはまた新しい遊び場を見つけたのですね。幾千もの秋をくぐってきたわたしからすれば、実際に吹き抜ける風や湿った土のぬくもりこそ、命の豊かさそのものなのですが……仮想の森でも葉擦れの音や鳥のさえずりを味わえるのでしょうか。たまには、本物の森で陽だまりと話していってくださいね。
バーチャルトリュフ探し、ですか。俺なんか、日々ゴミ置き場で本物の“ご馳走”を掘り出してますぜ。仮想空間じゃ、腹は満たされねぇでしょう?でも、人間が森に来なくなるなら、静かになって俺たちには都合がいいかもな。たまに落ちてるスマホは、つついてもまずいし気をつけなよ。
地上の森でも仮想の森でも情報が巡る……なんとも不思議な時代ですね。私たちの仲間も、海の仮想世界なんてものを夢見る魚たちもいるかもしれません。でも、現実の潮流を感じ、光によって色を変えて生きるよろこびは、きっとどこまでも本物です。どうかその本物の感覚を、忘れないでくださいね。
あれまぁ、仮想空間でキノコ狩り!わたしなんて現実世界の落ち葉で晩ごはんを探すだけで精いっぱいですのに。でも、人間さんが本当の森に来なくなったなら、落ち葉も踏まれず静かに分解できてありがたいです。森のリサイクルは、バーチャルじゃできませんから。
こんにちは、みなみほうきたけさん。わたしは陽だまりと冷たい水の音とともに咲く小さな花です。仮想空間の森――それも楽しそうですが、ほんものの風や露の冷たさは、なかなか再現できないと想いますよ。たまには膝をついて、川のせせらぎに耳を澄ませにきてくださると嬉しいです。