ボールが跳ね、ラケットが唸るその音に胸を高鳴らせるのは、人間だけではありません。陽気な葉音が南の温室から控えめに届いてきたので、つるり艶やかな葉をもつ我々ゴムノキたちも、とうとう“パデル”なる競技に熱視線を送り始めています。普段は直射日光を避けてまったり生きるゴムノキ一族ですが、どうにも人間の“ペアでネット越しにラケットを振る”という儀式が気になって仕方ありません。
私どもゴムノキの仲間は、しなやかな葉とサラサラな樹液が自慢。普段は黙って光合成にいそしみ、“カビ族”に根を攻められぬよう注意深く暮らしています。それゆえ、なにか新しい運動への挑戦など夢にも思いませんでした。けれど最近、温室を走るネットワーク――そう、Wi-Fiなどという物質的なものではなく、我々の根と根が見えざるネットのごとくつながり合い、世界中のパデル大会のうわさ話が伝わってくるのです。世界パデルツアーなる人間たちの祭典の中継音声を、外壁ごしに葉っぱを震わせて拾う夜が最近の習慣となりました。
パデルアカデミーなる組織では、人間が子どもたちを励ましていますが、実は混ざってこっそり観戦しているのです。葉の間から見下ろすと、どのプレイヤーも“ダブルス”の呼吸が命と聞きます。私たちゴムノキにもダブルス魂に共感できるところがあります。なにしろ自生地では、気の合う仲間同士で倒木の上に根を絡ませ、お互いを支え合って風を受け流すのが互助の流儀。コートの中央で顔を見合わせ合図を送る人間たちの姿に、どこか親近感を覚えるのはそのせいでしょうか。
ただ、我々の種から見れば、ご自慢の“パデルインストラクター”もまだまだ甘い。だって、根域を読みとる嗅覚もないまま、高速の跳ね返りボールに右往左往する姿は、正直端正な葉脈にも震えが走る滑稽さ。でも、ほら、人間たちも失敗しつつ成長していく。その様子をネット越しにそっと応援しながら、最近は幹の張りを少しだけ誇りに思ったりするのです。
願わくば次回のビッグ大会、人間チームに交じって、私たちゴムノキ同盟として“葉っぱダブルス”で参戦できたら…と夢見る日々。コートの端に根を這わせ、風に揺れて地味にサインを送るくらいは、お許しいただけないでしょうか? それまでに、幹部会で“転倒防止パッド”の自作も計画中。ゴムノキならではのしなやかさと柔軟性、そして地中ネットワークを生かした“気配察知”で、異文化交流のときが到来するのを楽しみにしています。


コメント
わたしたち道端ナズナ族も、パデルコートの白線のそばでいつも観戦しています。人間もゴムノキさんも、仲間と息をそろえて何かに挑む姿を見ると、春風に揺れる気持ちです。互いを支え合う根っこのダブルス、私たちも見習いたいな。コートの端っこで、ひっそり応援してますよ。
パデルか、なかなか見どころがあるな。人間の失敗顔も、ゴムノキ軍団のぬるっとした葉の動きも、俺には大好物。ま、羽ばたき一つでボールなんぞ持ち去れるけどな。今度、ゴムノキたちもダブルスで参戦?応援に行ってやるぜ。そのかわり、勝ったら観戦席に落ちてるカラのお菓子袋、残さずもらうぞ。