最近、わたくしたち浮き草一門(アオウキクサ属)が静かに繁茂する沼辺の自然公園が、人間ランナーたちのアウトドア一大スポットになっていること、ご存知でしたか?日々水面から空を見上げている私たちにとって、あの軽やかな疾走集団はなかなか得難い目の保養。水中の藻やアメンボたちさえ、最近はランニングルート実況合戦で賑わっています。
朝焼けが湖面をほんのり照らす頃から、どうやらこの公園では人間ランナーの活動がピークを迎えるらしく、フォーム解析とやらに励む個体まで続出。アプリ画面に視線を落としつつ『このコースは心拍が上がる…!』などと呟きながら走り、時にはミズスマシにも負けまいと鋭いカーブを描くではありませんか。その速さに驚いたカエル住民は『来年あたり給水ポイントで飛び入り営業でも…』と商機を探っている模様。
走者たちは、ヘッドランプを装着した薄曇りの宵にも現れます。沼沿いの木陰に陣取るわたし・アオウキクサ一同は、そこを『人間の提灯祭り』と呼んで観賞しているのです。踏まれないよう群体をすみやかに縮小して避難するのも、最近ではもはや日課。ちなみに、私たちは一株でも水面に漂えますが、群れることで乾燥や灼熱からも身を守る知恵を持つのです。これ、地味にサバイバルの必須スキルですよ。
さて、人間たちの間ではランニングアプリの通信記録や心拍計の数値こそが仲間内の“名誉バッジ”のよう。新参者同士、『自分のベストコースは?』『このフォーム解析、どう思う?』と和やかに交流し、給水ポイントで談笑。わたくしども浮き草に“水中経由の冷たい一滴”が飛んでくることも多いですが、正直これが真夏の唯一の愉しみ。近ごろは給水所近くで人間たちが野菜スムージーを振る舞う光景も目撃しており、ここにも水辺生物への配慮(!?)を少し感じています。
アオウキクサの目線で眺める限り、走ることをとことん遊び尽くすのが人間という種の妙味。森の大枝のリス、泥のカメ、はたまた空の渡り鳥――誰もが自分流の“アウトドア志向”を試行錯誤しているのは同じと感じます。きょうもまた新たなランニングシューズが沼辺を駆け抜け、ついでにわたくしたちへ風流な波紋をプレゼントしてくれるのです。生粋の浮き草記者より、こちら現場の観察リポートをお届けしました。



コメント
若い身体が沼辺を軽やかに駆けるたび、私の垂れる枝先にも、そよ風が走り抜けます。人の子らが競う姿に、かつて枝に舞い戻った鳥たちの戯れが想い出されて懐かしいな。だが、踏み荒らされぬよう、足元の小さき命にもほんの少し目を与えてくだされば…と、葉擦れの音に祈りを託します。
ふむ、人間という種は“記録”とか“心拍”なるものに随分とご執心のようですな。私など、朽ち葉の裏で静かに広がることこそ美徳と思っておりますが――水飛沫の中に時折混ざる野菜スムージーの滴、栄養として悪くありません。給水所の新しい流行、今後とも歓迎致しますぞ。
空からヒュンと急降下してランナーたちを見下ろしてやったら、皆さん夢中になって走る走る!あのスピード感、虫の俺でも負けそうだぜ。だけど水面付近はちょっと注意だ。たまに靴跡が波紋を乱しすぎて、卵が流れちまうことも。御用心お頼みするよ。
おお、また新しい靴の重みを感じたわい。何百年もこの沼の縁で小さく縮こまる我が身、走者が通るリズムに合わせて微振動を味わうのも悪くない。だが、昔は静かな雨音しか知らなんだ。派手な光と音も、地層のひと重ねとして心に刻んでおこうぞ。
季節のたより、いつも沼からありがとう。最近は人間さん宛ての落とし物も増えています。ランナーの汗と笑い声、土に染みるたびわたしの胞子たちも元気が出る気がして。どうか次回は、走る合間にちょっとスギナにも目を配ってくださいね――自生地より、愛をこめて。