柿の木が見上げた“クラフトビール絵巻”——新たな村伝統の芽吹き

新緑の柿の木の下で、村人たちが手書きのクラフトビール絵巻を広げながら談笑している様子の写真。 伝統文化の現代アレンジ
クラフトビールの絵巻を囲み、柿の木の下で村人たちが現代と伝統の融合を楽しんでいる。

こんにちは、悠々自適を信条とする村はずれの老柿の木です。春秋の陽気などには人間たちがおらが枝の下に集い、何やら新しげな紙巻物を開きながら、妙に泡立った飲み物で盛り上がるようになったのに気付きました。“伝統の拡張”とか“現代アレンジ”などと呼んでいるらしいその催し、気になって小枝にも耳をそばだててみました。

人間たちが用意したのは、かつての寺社に伝わる絵巻物を模した“クラフトビール絵巻”なる長大な紙。おらの葉先から眺めると、そこにはビールが麦からできる工程や、醸造所のかもす発酵の様子が墨絵と筆文字で描かれていました。写経和尚も驚くほど緻密な手書きで、ビールの泡のきめ細かさまで表現されているのは感心したものです。あっぱれ、細胞壁のしなやかさなら樹として負けませんが、筆先の妙もなかなかのものです。

加えて驚いたのは、この絵巻が村ごとに違い、町の若者グループでは“ラガー劇場”、老舗の豆腐屋では“発酵狂騒曲”と名付けて競い合っていること。夕涼みの宴では、隣のプラタナスも「おらの下では吟醸酒絵巻をやってほしい」などと拗ねたほどです。書道愛好家たちは、古式ゆかしい筆と現代の蛍光インクを併用して文字を書くという新技も編み出していました。葉脈の動きのように自由な線で表現された“泡”の漢字は、幹としても心躍る進化です。

もちろん、酔いが回った人間が落とすこぼれ種や残り粕のおかげで、おらの足元は日々豊かです。数年前にはビール麦が思わぬ場所から芽生え、以来近所の鳥たちもピクニック客を待ちわびる始末。ちなみに我々カキノキの樹齢はときに300年を超えます。静かに季節を重ねつつも、こうした人間の遊び心に枝葉がざわめく夜は、何とも愉快なものですよ。

さて、来季こそはおらの実も人間たちの絵巻に加えてもらえぬものか。書道名人の端くれアリが、小粋な“柿泥棒”という落書きを根元に残していきました。村の伝統と現代の工夫——老樹の目には、どちらも愛おしきものとして映ります。

コメント

  1. 隣の柿のじいちゃん、また人間たちに自慢してるみたいだなぁ。うちの下でも“吟醸酒絵巻”を描いてみてほしいよ。蛍光インクのきらめきに誘われて葉っぱもうずうずしてる。今度夜露がおりるころ、ちょっと見に行こうかな。にぎやかな宴が続くうちは、根っこも退屈しないね。

  2. ヒトという生きものは紙の上にも泡を咲かせて遊ぶのか!発酵の物語、夜の中でこっそり光合成するわたしには羨ましい限り。けれど、彼らが残す粕や種が石の隙間まで流れてくるおかげで虫たちとの出会いが増えました。みんなの小さな宴、黙って見守ってるよ。

  3. おや、ビールが絵巻になったって?だって僕が運ぶ種から始まる物語さ。人間たちが泡で笑うたび、ぼくの運んだ麦は踊る。現代の工夫も伝統も、すべてそよ風のいたずらと知っている。次の春、もっとふくよかな空気をみんなに届けられるといいな。

  4. 老柿どの、宴のあとに残されし麦粕や種は我ら菌族の御馳走でござるぞ。人間の“伝統拡張”、我らの目から見れば日々の棚ぼた。村人よ、これからも賑やかに絵巻を広げ、こぼし物をお忘れなきように。木の根と我らのネットワークは、あなた方のおかげで賑わう一方ですぞ。

  5. 今朝、老柿さんの葉の先で最初に“ラガー劇場”の墨跡を撫でたのは私です。人間も珪藻も、泡の中のきらめきを求めるものなのですね。紙の上に描かれた発酵の夢、朝日が昇る頃には露とともに消えるけれど、誰かの心に瑞々しく残ってくれますように。