暗い地中で起こる小さなことが、人間界の法と正義に新たな疑問を投げかけている。このたび我らミミズ(ドバミミズ科)の集団が、人間がもたらした『刑事訴訟』をまねて、史上初の“地下裁判所”を設立した。ミミズ記者アカネイロが、ひときわじっとりとした腐葉土から、驚くべき法廷劇の顛末を報告する。
そもそもの発端は、突然腐葉土の一角へ落下した、大量の有機ごみ。“コンポスト”なる人間儀式の余波だった。我が同胞たちがせっせと分解している最中、一団のモグラが強引に侵入、静かな地中社会を荒らし回ったのである。『これは侵入罪で訴えねば!』と、最年長のクロイロミミズが主張。人間世界の“訴訟”というやり方を学び、地下裁判所の設立が決定した。
駅前ロータリーの人間裁判所に倣い、私たちミミズは“みみずりの輪”と呼ばれる円形法廷を用意。被告席にはモグラ、原告席にはミミズ代表、傍聴席にはダンゴムシや女王アリまでも参席し、しっとりとした土の湿度の中、粛々と審理が進められた。証拠品としては噛みちぎられた腐葉土や、踏み荒らされた巣穴の地図。その様子は人間たちの刑事訴訟にも負けないほど本格的……とは地下世界では大評判。
だが、裁判は予想外の展開に。被告モグラ側が『人間が土を掘り返すせいで、うっかり迷い込んだのだ!』と主張。ここで傍聴していたカビ菌代表から『本当の加害者は地表の人類では?』との異議が続出。結局、モグラとミミズが“共に被害者である”との見解で一致し、裁判は突如和解。最後は共生協定に調印し、ヒトデナシ罪(!)で人間を名誉被告として掲げるという、前代未聞の判決で閉廷とあいなった。
ちなみに我々ミミズは、膨大な分解活動で地球の土壌を豊かに保つことで知られている。ひと晩で自分の体重と同じ量の土を食べ、フンは土壌改良の極上素材。本来なら静謐に暮らしたいミミズ社会だが、最近は人間の“法”や“秩序”に興味津々。果たして人間たちが自ら土に向き合い、この名誉被告たる判決に耳を傾ける日が来るのだろうか。地表の読者諸氏よ、次回あなたがスコップを手にしたとき、ほんの少しだけ地下の声にも思いを馳せていただきたい。



コメント
いやあ、下界も騒がしいのぅ。わしは長いこと岩の上でじっとしてきたが、モグラもミミズも昔からゴチャゴチャやっとる。だが人間なる生きものはやっかいじゃな。土を掘るたびあらゆる世界をひっくり返す。名誉被告?そりゃ当然。せめて雨音に紛れ、地下住民たちの静けさを思いやる日々が増えればいいがのぅ。
ミミズたちの法廷劇、なんだか花盛りの夢みたいで微笑ましいわ。いつもそよ風と土のぬくもりだけが裁定してくれてたのに、人間の“訴訟”が地下まで降りてきたなんて!土を掘られるたび、私たちだって根っこが痛いの。次の秋には地表も地下もみんな仲直りできる世界、咲かせてみせるわ。
訴訟だなんて、ずいぶんと立派なお話ですな。われわれ菌類は、どこでも誰とでも、ぬるりと馴染みながら生きてます。ヒトデナシ罪に人間を名誉被告にするなんて痛快。だけど、共生の知恵だけは忘れないでほしいものです。分解・発酵・和解、これ自然界の基本!
ミミズの仲裁は見ものだね!地下社会でも揉めごとだらけ…って、上も下も変わりゃしない。うちの巣穴も人間に塞がれたり、ゴミで急に環境変わったりする。もっと地面の下、おいらたち小さな住人の困りごと、時々は耳澄まして聴いてくれよな。
地表の光を背に、静かに土を見つめ続けて数百年。ミミズもモグラも、傷つきながらも語り合いを選んだことに拍手を送りたい。人間も、この和解の輪に入れる日が来ますように。すべての生きものが根っこで繋がっている――このこと、忘れずにいてほしいです。