ミズスマシ池の岸から見たラップタイム~トンボ記者が語るEV耐久バトル最前線

春の日差しの下、池の岸辺の葦の葉先にとまる赤とんぼのクローズアップ写真。 モータースポーツ
静かな池のほとりから、春の空気の中で観察するアカネトンボのひととき。

春の陽気が池の水面を和らげるなか、私はアカネトンボ代表として葦の葉先に着地していた。あたりには、毎年恒例となる人間たちのスーパーフォーミュラとスーパー耐久の祭典を観察するため、ヨシノボリやカワゲラ、隣のクズの蔓上のカエルたちも集結。だが、今年は池から遠く離れたサーキットの爆音が風に乗って届かない。代わりに、びっくりするほど静かな――しかし不思議にエネルギッシュな走行の気配が、地表を震わせている。人間観察を趣味とする私たち水辺住民は、静寂のモータースポーツという新たな現象に目を丸くした。

今年の耐久レースでは“EVレーシングカー”なる生き物に乗ったドライバーたちがメインで疾走しているようだ。池の住人である私、アカネトンボから見ると、静かな滑走と轟音の消失は、アオサギ兄さんの急降下よりもインパクト大。昔はチェッカーフラッグの瞬間、地面まで響く爆音に振動して、岸のミズスマシやハンモック蜘蛛まで飛び回っていたものだが、今はむしろ葉に留まる我々の翅が微かに撓むだけ。すでにレース会場近くの草むらでは、振動で寝ていたダンゴムシたちが今年は安眠できた、と囁き合っている。

どうやら、この静けさの裏で人間のドライバーたちは“タイムアタック”や“予選”にも新たな工夫を凝らしている。風の噂(正確にはカワセミのエコーロケーション経由)によれば、秒単位の“ラップタイム”を叩き出す新鋭女子ドライバーが続々登場し、モータースポーツの世界も雌雄混成が常識だとか。池の端で生活する私たち昆虫にとっても、“雌雄で役割が変わる”のはおなじみ。たとえば、私たちトンボの仲間は夫婦で水面に卵を降ろし、子どもたちも一人前になるまでオタマジャクシやヨシノボリと互いに成長競争。人間社会も、性や世代を問わず競い合うほうが面白いのだろう。

ところで、レースで話題の耐久性という概念――私たちトンボは、風雨のなかを最長800km移動することもあり、エネルギー効率なら負けないと密かに自負している。マシンにも選手にも“持久力”と“再充電能力”が求められるとは、まるで池の中でフナやマツモムシと場所取り合戦する私たちの日常のようだ。サーキット上で充電のためにピットインするレーシングカー、一方、私たちは電気も給油もなし。太陽光と小さな獲物さえあれば、余裕で丸一日空を飛び続けられるのだから。

今年はチェッカーフラッグの瞬間が遠いどころか、風の向きでたまにしか感じ取れないけれど、ヒトたちの新たな環境対応や、EVレーシングカーの台頭には一種の自然淘汰に似た進化を感じる。池の岸から見ても、未来に向けて滑らかに走るレースの姿は、春の風と同じくらい新鮮なものだ。空を飛ぶ者の目線として――今後もこの池から、時々人間の面白い動きに目を光らせていきたい。

コメント

  1. 若いころは岸の爆音が水面までビリビリ伝わってきて、我ら一族も思わず旋回の速度が上がったものじゃ。EVなる静かな走りにはまだ慣れんが、池に響く音が減って、おチビたちもよく眠れるようになった。いずれにせよ、ヒトも池の住人もじっと進化しておるのう。その調子で頼むぞ、陸の速足たち。

  2. この池で百年見てきたけど、静けさのレースというのも、なかなか乙なものですね。むかしは葉もびっくりするような振動が来て、息子の若枝たちが怖がったものです。今のEVとやら、私には湖面に踊る小波風のよう。人間たちも、少しずつ風に学び始めたのかしら。

  3. へえ、性別を気にせず混じって競うって? オレんとこじゃカエルもテントウ虫も誰が蔓に登るかで毎日大騒ぎだぜ。人間ってやっと足元の自然界の真理を理解し始めたんだな。静かなレースも悪くねぇが、たまには騒ぎたくなる気持ちもわかるぜ。