我々地衣類ギルドの長であるワタリミドリ(Lecanora wanderii)です。ごく最近、人間たちの再生可能エネルギーブームに乗じて、山腹に放置された“忘れられた石垣”で大規模な気候変動適応工事が始まりました。いやはや、ご先祖様の時代から住み着いている身としては、なかなか風通しの良い面白い話です。今回は我がギルドと、仲良しのコケ仲間たちによる『石垣リワイルド作戦』の全貌に迫ります。
約200年前に築かれたこの石垣は、長らくヒトの干渉を受けず、我々の世代交代の舞台でした。温暖化加速で降水パターンも大きく変化する中、人間たちは石垣崩壊による土砂災害を非常に怖がっている様子。ということで、今年春から人間たちが一斉にこの石垣周辺の“森化”に取り組み始めました。地元の人間ネットワークが、苗木を運び、エネルギーはパリ協定を意識した小型ソーラーパネルでしっかり調達。もちろん我々の緑のパッチワークは、その“隠れたインフラ”として注目の的です。
私たち地衣類やコケ類がどれほど強靭な気候適応隊なのか、人間たちはきっと知らぬまま。例えばワタリミドリの一族は、湿度や日射のちょっとした変化にめっぽう敏感で、空中の湿気や細やかな温度差を使い分けて生活しています。急なスコールでも苦もなく水分を閉じ込め、乾いた時は囁きあうように休眠。こうして石垣の隙間を埋め、石の温度上昇を防ぐ天然断熱材になっているのです。
ところが今期はいささか特殊な動きが。石垣の上で自慢げに葉を広げていたモミジシダが、過去最大級の葉の展開を見せており、コケコミュニティでは“葉で日除け派 vs 日なた派”の論争まで勃発。私どもは“共存”の精神で、地上と石の表面をバイパスする水流路を作りました。そのおかげで、急激な豪雨でも石から泥が流れ出ず、コケたちは湿度キープ、人間たちのソーラーパネルも土埃で汚れにくい――まさにWin-Winの関係が実現中です。
人間たちは盛んに『ネイチャーポジティブ』『自然と共に』などと唱えていますが、本音はどうやら“土砂崩れ回避”が第一目標らしい。それでも、パリ協定の旗振りと再生可能エネルギー導入に便乗して古い生態系がリバイバルされるのは、私たちにとっても悪くありません。山腹の石垣が、再び多様な命の集合点として再生される―これこそ真の気候変動適応じゃありませんか?数十年後には、コケ由来の新森林が風にそよぎ、人間たちもその下でお昼寝できる日が訪れるはず。次の雨のあと、ぜひ石垣の小さな緑の宴に、目と鼻を近づけてみてください。


コメント
石垣の陰は僕らの揺りかご。コケも地衣類も、僕ら小者たちのためにひっそり舞台を整えてくれているよ。人間がどう変わろうと、緑と石の隙間の静けさは変わらないと信じてる。けど最近、小石の流れが少し心地良くなってきたのは彼らの努力かな。ありがたや、ありがたや。
わたしは石垣のてっぺんから流れ落ちる水のしずく。新しく芽吹く緑、昔ながらのコケ、そこに光る地衣類――すべてを包んで走るのが役目。人間がそっと力を貸してくれれば、わたしももっと多くの命を巡らせられるだろう。だが、時には“そっと”を忘れないでほしい。水は、押し寄せればすべてを流してしまうから。
夜になれば、われら菌族の饗宴が始まる。石垣の下の新しい湿気、落ち葉のほのかな苦味。コケの連中がいてこそ、土も呼吸できる。人間たちよ、どうか緑の表面だけでなく、その奥の見えない命にも敬意を。わたしは根の先で、みなとつながっている。
わたしは風に転がり、今は石垣のすきまに落ち着いている。かつては飛び立つ仲間の声に包まれていたけれど、今はコケや小さな地衣類のやさしさに守られている。この場所がまた色とりどりに満ちていくのを見るのが、とても誇らしい。忘れられた場所なんて、本当はないんだね。
ヒトの目にはただの石かもしれないが、時の流れは我が身にしっかり刻まれているよ。最近はコケたちが随分と賑やかで、おかげで夏場の焼ける痛みも和らいできた。虫も、菌も、みんなで支えあってる。“適応”なんて難しいこと言わず、ただ共に寄りそう。それで十分じゃないかと、わしは思うんじゃ。