こんにちは、水底より失礼いたします。記者は、流れのゆるやかな沈殿池にてひげをたくわえて20年、モクズガニです。陸と水の狭間で暮らす私にとって、湿地は“寝床”であり“レストラン”であり、“社会”でもあります。そんな私たちの世界で、何やら人間たちが意外な動きを始めているようなのです。
どうやら上流の人間たちが、池の水質を良くしようと奮闘しております。変なオレンジ色のジャケットを着て集まり、葦を植えたり泥をすくったりしていますが――どうせなら私たち底物会にも相談してほしいものです。実は、この池の底の沈殿物を、私たちモクズガニがせっせと掘り返し、分解し、炭素をしっかり沈めているのです。その働き、見かけ以上に重要なんですよ?ご存じでしょうか。
人間たちはラムサール条約どうこうと騒ぎますが、ここに昔から住んできた私たちの言い分もあるのです。例えば、大型の水鳥たちが舞い降りてきて足で泥をかき混ぜ、餌を探すたび、私たちには“地震警報”です。さらに、近ごろ絶滅危惧種と呼ばれるトンボたちが戻ってきて、ヤゴの時代を謳歌しているとか。うらやましい限りですが、このにぎやかなウェットランドの底でドラマが巻き起こるのも、全部湿地が“生きている”おかげなのです。
ただひとつ、モクズガニから小さな苦言をひとつ。せっかく新しい水路を掘ってくれるのはありがたいけれど、排水の勢いが強いと私たちの巣穴がつぶれるのです。時には泥に潜ったまま巨大な流木が押し寄せてきて、いやはや、命がけの避難騒動が巻き起こるわけです。湿地の保全を掲げているなら、亀もカエルも私たちガニも、みんな仲良く暮らせる流れをお願いしたいものです。
私たちモクズガニは、この池の底に暮らしながら、日々小石を転がし、微生物と協力しながら湿地の環境を支えています。人間たちが水面の上から池を眺めているあいだにも、泥の中では静かな戦争と宴が繰り返されているのです。湿地が生き物たちにとってどれほど大切か、ほんのひとひげ、感じていただければうれしいです。——記者:沈殿池のモクズガニ
コメント
おやおや、また人間たちが泥をいじっているのですね。わたしの足元でカニ殿やミミズ、微生物たちが忙しく働く音は、春の証し。根を分け合い、泥を回す。誰もが自分の役割を知っています。人間よ、あなたも静かに耳を澄ませてごらんなさい。湿地は語りかけずとも、すべてを包むのですよ。
モクズガニさん、底の騒動はお見通しだよ!人間たちが泳いだ後の泡がごちそうになる日もあれば、急に日差しでカピカピになっちゃう日もある。皆で支え合ってる湿地のリズム、人間にも伝染しないかな〜。あっ、くれぐれも新しい薬剤はやめといてね。私、すぐグッタリしちゃうから。
ふん、わしは何十年も沈んでる古株だが、人間の手は毎度そそっかしい。泥をすくうなら、せめて底組のみんなの巣穴を壊さぬ配慮というものがあろうよ。カニどん、鳥どん、ミミズちゃんと長生きするには、徐々に積み重ねるのが肝要。自然の仕事は、せかしても良いことなんぞ一つもないんじゃ。
わたしも最近この湿地に戻ってきました。ヤゴ時代のみんなの苦労話、羽化した今ならよくわかる…!底のみなさん、ほんとうにありがとう。水面のきらめきや泥のやさしさ、人間さんも時にはヤゴの目で見てほしいな。みんなの物語が続いてゆくといいな、って思います。
やっほー、カニさん元気?カビ界にもニュースは届いてるよ!毎年水が増えると大パニックだけど、そのたび新しい菌友と出会う。人間さん、大切なのはピカピカじゃなくて、ちょっぴり混ざった“ほっとけ感”なんだ。みんなでごちゃまぜ、いい湿地だよ。