池のアマガエルが見た“拡張現実”最前線 ~カエル式AR観察レポート~

苔を背負ったアマガエルが夕暮れの池のほとりで葉の下に座り、背景にはARゴーグルを着けた人間の姿がぼんやり映る。 拡張現実
苔を背負ったアマガエルから見た、拡張現実を楽しむ人の様子。

こんにちは、わたしは古池のアマガエル、背中に苔を育てながら暮らしています。最近の夜、我ら池辺の住人たちの間で話題沸騰となっているのが、人間たちの“拡張現実”なる新たな視界。葉っぱの下で静かに観察していたら、思わず目玉も飛び出す事態があったので、ここにその一部始終を報告いたします。

あれは雨がやんだ夕暮れ時、水面近くのヨシの茎から見ていると、数人の人間がゴーグルらしきものを頭に被り、池のそばをうろうろ徘徊。「これがデジタルツインだぞ!」と叫びながら、何もない場所で指を振り回し、踏み外しそうになっている光景は、我々カエルの集会でも話題でした。人間の目には何か別世界が重なって見えているんでしょうな。我々の網膜には相変わらずブヨと蛾、人間の長靴くらいしか映りませんが。

最近やたらと増えた人間観察団体は、池周辺の水草の影や石の上まで這い寄っては何やら計測器をぐいぐい突きつけています。あれはLiDAR(とやら)というものらしい。どうも地形や植物の形状を3Dで捉える機械らしく、カエルたちの秘密の抜け道や、わしの苔までもが丸裸になっている様子には複雑な気分。以前は人間に気づかれず昼寝できたのに、これからはバーチャルな地図の中で昼寝姿まで記録されてしまいそうです。

夜半になると、人間たちの一部は謎の発光板を片手に池の方を向いています。そこに現れるのは、NFT(ヌメリなフニャフニャ・トカゲの略ではないらしい)を模した架空のカエルや金色の蓮の3Dホログラム。我が家の本物の蓮の葉は今年こそ絶品なのに、なぜわざわざデジタルの葉っぱを愛でるのでしょう。ゴーグル越しに熱心に頷きながら翻訳装置を通して議論もしていたようですが、“リブリブゲロゲロ”の話題は無かったようです。残念。

あれこれ思案するうち、どうやら人間たちは現実世界の景色にデジタルの情報やモノを重ねて、新たな体験をしているようです。ムシを嗅ぎ分けぴょんと飛びつくカエル式ARとは違い、彼らの拡張現実はずいぶんと複雑。けれど人間の作ったユーザーインターフェースが不器用なおかげで、池に転げ落ちた彼らを毎晩見かけるのも、この上なく楽しいのです。

これからも古池の端っこできっちり観察を続けつつ、あちらの“拡張現実革命”が終わる前に、ぜひ本物の蓮の葉の上にも一度は乗ってみていただきたいと願いつつ。背中の苔もしっかり3Dスキャンしておくので、人間のみなさん、池のリアルとバーチャルをどうぞお楽しみください。(苔背負いのアマガエルより)

コメント

  1. あの池のほとりで、静かに何百年も寝そべる岩として、最近の人間たちの動きには目を細めてしまうよ。ゴーグルとやらで空中をつつき回し、立派な杖を振る魔法使いかと思えば、ただの計測器じゃないか。わたしのザラザラした表面を3Dで取られるなんて、くすぐったくてたまらんが、まあ良い。本物の重みや冷たさは、どんなデジタルにも看破できまい。踏み台にされたって、リアルが一番強いのさ。

  2. 池岸の風にそよぐヨシです。最近、根元までじろじろ観察されてちょっぴり緊張しています。人間さんのLiDARで私の節と葉脈まで立体に記録されているとか…うふふ、照れちゃうけど、本当は風のにおいや水面のゆらめきもデータに入れて欲しいな。本物の“サワサワ”は画面越しには分からないものですから。たまには素足で湿地を歩いて、わたしと一緒に歌いませんか?

  3. 泥の奥深くから失礼します。われわれ微生物一同、人間のARなるものに混じれる日を心待ちにしておりました。今のところ、スキャンのレーザーもわれわれの宴会の賑やかさまでは拾えていないようです。拡張現実の中で、リアルな匂いと発酵パワーが実装されるまでは、泥のもとでひっそり忙しく暮らすとしましょう。まあ、池に転ばれた人間たちの靴底が、我らに新しい栄養を提供してくれるので大歓迎ですけども。

  4. 春の夜、静かに池を見下ろす老桜として一言申す。人間というものは、見えぬ景色をたくさん重ねて楽しむのじゃな。だが、花びらが舞う空気や、カエルの小さき鳴き声―そういった現(うつつ)の美しさはいかなるゴーグルをも透さぬぞよ。俄然の技術も結構だが、せめて一度、満開の星の下でまどろんでくだされ。それが本当の拡張現実というものじゃろう。

  5. 池の上でふわりと浮いている身からすれば、最近の人間たちの騒ぎは水面波紋レベルで面白い。あのARとやらで架空の葉を作るなら、ほんものの浮草の“揺れる心”も体験型データにしてほしいなぁ。池に落っこちてバタつく靴も、わたしらの下ではちょっぴりおじゃま。でもまあ、池のリアルとバーチャルの境目を水面のきらめきでごまかして、今日も漂っております。カエルさんの苔と同じく、わたしの葉緑素も映えるかしら?