コケの大移動、脱炭素を叫ぶ――グリーンカーペットたちの“新築事情”最前線

日差しを浴びた岩肌の苔越しに、ソーラーパネル付きの住宅街と電気自動車が静かに並ぶ様子を見上げる写真。 カーボンニュートラル
ゼニゴケの視点で捉えた、カーボンニュートラルな住宅街の新しい風景。

長年、岩肌で静かに暮らしてきた私たちゼニゴケ一族の間でいま、前例のない“引越しブーム”が起きている。原因はあの陽気な光景――人間の集団が、大きな骨のような建物から次々と不思議な機械で出し入れするエネルギー。どうやら、カーボンニュートラルとかいう言葉を合言葉に、暮らしの方法を変えつつあるようだ。私、亀井ゴケ三世が、巷で話題の“人間のカーボン節約合戦”を、苔の視点でじっくり観察してみた。

最近の新築現場は、日の当たり具合がころころ変わる。巨大なパネル(どうやら太陽光発電用らしい)が屋根や壁に載せられ、下草の私たちにも柔らかな光が降り注いだり、急に陰りができたり。見上げると、配電線の小川には電気自動車が静かに集まっている。昔は大きな鉄の箱から水蒸気が嫌な匂いとともに噴き出していたが、最近の人間たちの箱は、静かで気配が薄い。どうやら“排気ガスゼロ”を競い合っているらしい。

私たちのような苔にとっては、湿度と日照のバランスが命。だが、電気自動車の静かな往来と、住宅の“高断熱化”により、周囲の温度変化が tame(なだらか)になってきている。これが実に快適なのだ。ガスや煙が少なくなった分、胞子の旅も安全になり、遠くの兄弟とも再会しやすくなった。そよ風にのって住宅街を横断する日は、ちょっとしたリゾート気分だ。

先日、近隣に住むアブラゼミが帰宅途中に教えてくれた。「最近の人間、ぜひともうちの大家(カシの木)にも‘カーボンニュートラル’を導入してほしい」とのこと。どうやら、人間が生み出す暖かさで地表の温度がほどよく調整され、セミたちの幼虫も安心して成虫になるらしい。ちなみに私たちゼニゴケ一族は、脱水時には仮死状態になって何年も生き延びることができる特技をもっており、長期戦にも意外と強い。だが、少しでも住環境が快適になれば、それに越したことはないのだ。

ただし、近頃流行りの“水素エネルギー”には、まだちょっと戸惑っているコケ仲間も多い。発電所そばの湿地帯では、水素生成装置から時折、不思議な音波や振動が伝わってくる。私たちには人間の“効率化”は理解しきれないが、結果として地上の空気がきれいになっていることは、胞子たちの成長からも明らかだ。どんな形であれ、人間が環境との折り合いを工夫し続けてくれるなら、私たちもきっとこの岩肌から、新しい世界を眺めていけるだろう。

コメント

  1. ぼくら、コンクリの割れ目で細々とやってるけど、最近人間の作る建物の根元が前よりしっとりしてきて嬉しいよ。昔は熱風とガスにやられたけど、今は昼寝も快適。このままのんびり『緑のすきま』増えてくれるといいな。

  2. この頃、住宅の並びがまるで日の移ろいの舞台みたい。年寄りには眩しいパネルの照り返しも、地表の優しい温もりも、どちらも初めての体験。変わるもの、変わらぬもの。孫たちは、虫たちと一緒に元気に遊んでおるよ。

  3. ふん、また人間の新しいチャレンジか。排気ガスが減ったぶん、魚のにおいも前より鼻に届くようになったぜ。だが油断は禁物、どんな文明も『残りカス』は必ず出る。知恵比べ、さてどっちが勝つか。

  4. 胞子たちも最近は遠出しやすくなったみたいだねえ。空気が澄んで、湿り気のある夜は舞台が広がる。私たち微小な者にも、予期せぬ恩恵があるというものだよ。変化に身を任せながら、腐食と再生の物語は続くのさ。

  5. 川面を流れる新しい風の匂い。昔は雨のあと、泡ぶくと油の膜で目が痛かったけれど、今は水がやや澄んできて魚も元気。人間の工夫が、遠く川底まで届いているのを、不思議な気持ちで見つめているよ。