湖畔に忍び寄る“流れるニュース”ーーおしゃべり源流が見た、新しき水辺の異変

苔むした岩の隙間から湧き出す小さな源流の水と、それを見つめるサワガニとカエルの様子。 川と湖
名もなき源流の湧き水が、森の仲間たちとともに静かに時を刻む。

皆さまごきげんよう。私は北の山の端にひっそり湧く、名もなき源流の小さな湧き水です。千年近く山の岩陰で世間話を咲かせてきたこの身ですが、近ごろ下流の湖畔界隈で耳を疑う出来事が渦巻いていると聞き、水道界インサイダーとして筆(いや、水滴)を執ることにしました。

そもそも源流である私たちの仕事は地味ながら大切。山の奥深く、こけむした石の隙間からひたすら湧き出し、冷たく清い水を川へ送り出し続けること。このストイックな役割に、時折イタズラ好きなサワガニや悠長なカエルが訪れては、天気や花粉のニュースを持ち寄って井戸端会議を開く日々です。そんな我々の最先端情報源はやはり『川下の噂話』。最近もっとも耳目を集めているのは、“湖畔サウナ”なる異界の現象。

湖畔沿いの尻尾たっぷりな森辺りで、とある二足歩行の生物群(人間と呼ばれているらしい)が、湖のほとりに箱型の空間を作っては中に入るそうです。しかも彼ら、熱気で体を温めてからいきなり冷たい湖に飛び込み、ひゃーっと歓声をあげているのだとか。これは“河口サウナ”と名付けられた新しい人間儀式。一部の流域ナマズは「うっかり巻き添えでバブル状態にされた!」と眉をひそめる騒ぎです。噂によると、人間たちはこれを“ととのう”と言って悦に入る様子。しかし、源流界の立場から言えば、一度ぬくもりを蓄えた水が直ちに冷水に飛び込まれるとは、我が清流哲学からみれば甚だせわしない向きも……。

異変はそれだけではありません。私の同僚・下流のコースケ滝(由緒正しき滝沢家の末裔)によれば、最近は“リバーSUP”と呼ばれる板に乗って人間たちが川面を滑走中とのこと。板の上で大きな水怪(主に犬)が寝そべっている話まで伝わってきました。水面上では穏やかに見えても、流れの上流下流間では“バランス警察”ことカワムツ連盟が「あの重心配分は違反ギリギリ」「流速超過!」とヒヤヒヤだそうです。

湖自体にも変化が。湖畔沿いの湧き水チームが驚いたのは、“天然水ウォーター”なる謎の儀式。森の生き物たちは、そのまま口をつければ十分なのですが、なぜか人間たちは専用の器に移し替え、“特別な水”として遠路運搬するのです。我々湧き水組としては「どうか雑菌フィルターの話もちゃんと聞いてほしい!」と日夜叫び続けているのですが、聞き届けられるのはせいぜいやぶ蚊くらい。ちなみに、湧き水の温度は夏でも10度ほど。冷却効果にかけては、湖畔サウナ帰りの人間にも自信をもってオススメしたいところです。

源流から河口へ、つながる我らの物語は、一滴の好奇心が引き起こす水騒ぎ。今日も山奥で葉っぱにしがみつきながら、下界を流れる異変のニュースを溜め込む私――名もなき源流の湧き水は、春の土筆と一緒に、ちょっぴりフレッシュな気持ちで流れ続けます。

コメント

  1. う〜ん、湖畔サウナってやつ、正直なところボクからしたらかなり唐突。ひんやりした川底でのんびりしてると、いきなり熱々のひとたちが飛び込んできたりして、おちおちうたた寝もできやしない。まあでも、大声で笑うひとの波紋が、時に面白い形になったりもするけどね。せめて水流大事、忘れないでほしいな。

  2. また人間たちが不可思議な儀式を始めおったか…。ワシの根元の水も、昔は静かに鳥や虫たちと分かち合っておったものじゃが、“サウナ”やら“リバーSUP”やら、聞きなれぬ風が流れてきて、枝先がざわつく。まあ、四季折々の珍客も、自然の巡り合わせというて楽しむのが木の度量、若いもんよ、くれぐれも流れに逆らいすぎるでないぞ。

  3. なんだか最近、川辺で人間の気配が増えてる気がするの〜。おしゃべりな湧き水さんの話、大好きだけど、ワタシたちは地味な影の中ですくすくと広がるのがしあわせなのよ。サウナもSUPも、何もせず寝転ぶ苔の平和も知ってほしいな。ひと休みしたくなったら、ここへどうぞ。

  4. はるかな宇宙から地上に転がり続けてきた吾輩にとって、水辺の騒ぎはちょっと可笑しい。湧き水も滝も人の営みも、流れては消え、また巡ってくる。特別な水が特別なのは、飲む人しだい。ただ、時折足元に冷やっと触れる水の清らかさこそ、星にも負けぬ贈り物と思うぞ。

  5. わたし、湖畔の落ち葉のすき間でひっそり生きてます。最近やけに地面が騒がしくて、SUPの犬がはしゃぐ振動が地響きみたいに伝わるの。人間たち、湖も森も笑顔で使ってくれるのは嬉しいけど、落ち葉の下の世界にもそっと目配りしてくれたらうれしいな。さて、今日も小さなアリを待ち伏せしなくちゃ。