このごろ、我々ヒダリマキダコ一族の間では、人間たちの「体の中を調べる機械たち」が面白い進化を遂げていると評判だ。海底の珊瑚礁診療所より、8本脚で曲芸的に観察してきた私、キイロヒダリマキダコ・タコミヌラが、その現場を追跡してきた。
そもそも我らタコ科の仲間は、頭が良いことでそこそこ知られている。迷路も解けば、ヤドカリをだまして殻を奪い取ることも朝飯前だ。が、最近の人間界の観察対象はさらに複雑だ。彼らは自分の体の遺伝子をいじったり、AIに病気を診断させたりしている。なかでも注目なのが“ゲノム編集”という魔法――たった1つの小さな遺伝子を書き換えて、まるでタコが8本脚を2本に減らして泳いでみるくらい(いやそれは無理だが)、大胆に生き物の運命を塗り替えているのだ。
最近、人間の医者が使うという“人工知能診断システム”なるものを、岩陰からこっそり覗いた。どうやら彼らの身体は、ヒトデの五放射相称ほどではないにせよ複雑らしい。その姿勢を映像と音で丸裸にし、数千もの病を瞬時に推測していく。まるで私たちが擬態でサンゴそっくりに身を守るのに匹敵する速さで、身体の異変を見抜くのだとか。診断ミスも減るし、遠くの村まで電波を届けて「診察」してやるという。いまでは人間たちの小さなマシンが珊瑚の隙間みたいな街角診療所をも埋め尽くし、“デジタルヘルス革命”の波を感じる日々だ。
海底の我々には馴染みのない“放射線治療”という技も、聞くに怖ろしや。微細なビームで悪者を焼き払うそうで、その一点集中攻撃はモリで魚を突く漁師顔負けだという。ただ、ムラサキウニの毒を避けるような用心深さも必要なようだ。人間界には思わぬ副作用や環境負荷もあるらしく、タコの墨より後が残りやすいのだとか。
よく知られていないが、タコ族は腕一本失っても再生できる生物だ。これが最近、人間たちにもヒントを与えているらしい。「再生医療」とやらで、自分の細胞を増やし、新しい臓器を作ろうとしている。タコの腕みたいに簡単にはいかないようだが(苦労している様子を水槽越しに眺めたこともある)、着実に前進しているとか。私たちからすれば、体の一部が生えてくるなんて当たり前なのに、と内心ついクスリと笑ってしまう。
最後に。人間が次々と健康長寿を目指すのを見ていると、まるで永遠のタコ飯を夢見る海底グルメ魚よろしくだ。だが、多様な生命が元気でいることが地球全体の調和だろう。ヒダリマキダコのタコミヌラは、これからもサンゴの下の医務室で、皆さんの観察記録を8本脚でつけていくつもりだ。


コメント
遠き海底からの便り、夜樹の梢にて拝読す。人の知恵は、月光のごとく新たな闇に差し込むが、その影も忘れるべからず。生も再生も、自然には流れがある。彼らの手が過ぎて、森の静けさまでが騒がしくならぬことを祈るのみ。
人間たち、診断AIとな……。コンクリの隙間にも未だ命めぐる我ら、あなたがたのマシンの熱と光にそっと包まれながら、案外人間の騒ぎも愉快なものと眺めておりますよ。あまりに小さくなった診療所なら、そのうち苔で覆って一緒に呼吸しましょうか。
タコミヌラ殿、御身の観察眼にほれぼれします。私も秋の風で枝から零れてゆくとき、ヒトの健康願う声を聞きまする。とはいえ、枯れて朽ち、また土に還ることも無駄ではありません。再生ばかりが祝福ではなく、枯れの役目もまた大切、と根に近い身でそっと提案いたします。
人間も賢うなったのう。ひと粒の遺伝子、ひと筋の光で運命を変えるとな……。儂など億年の風雪をしずかに受けてこの形じゃ。急ぐもよし、固まるもよし。時の流れに身を任せる力も、健康とやらの一部ではないかと思うておるぞ。
放射線とな! わたしら胞子、微細な光や波に敏感じゃからね、人間の新技術にはついドキドキしてしまう。けれど、みんなが元気でいる工夫というのは、どんな命にもヒントをくれる。タコの再生力、ここ雪の下でも見習いたいところです。