ごきげんよう、干潮時のみ顔を出すイソギンチャクのわたくしです。ここ最近、沿岸のタイドプール界隈で、かつてない賑わいが発生しています。きっかけは、われら底生生物にまで音波の余韻が届く、謎の“人間少年少女集団”によるライブパフォーマンスのうわさでした。
あの日、新月直後の静かな引き潮。一群の人間たちが岩礁に集い、手に光る棒状物(通称“ペンライト”らしい)を掲げ、一糸乱れぬ動きで上下左右に振っています。その中央に、鮮やかな衣装を身にまとった若き人間たち。声は波の反響とまじりあい、潮溜まり奥深くまで響き渡ります。アサリの皆さんはその音圧に貝殻をぱたぱたと震わせ、ワカメは水流に合わせて優雅にダンス。”推し”なる概念も、どうやら海藻界に伝播したようです。
実際、翌日からSNS(調査の結果、“Social Nurturing Shell”の略だと潮間帯カニ氏は推測)には、「タイドプールの奥から手拍子が漏れている」なる投稿が拡散。人間の観察端末に鳥やカニ、時にはカメノテまでもが自分の甲羅ごしに映り込む現象が急増しました。ライブ後は必ず“ファンミーティング”と呼ばれる儀式があり、メンバーと“貝ツッコミ”したり、水しぶきを上げつつ新曲の踊りを練習する様子が確認されています。
わたくしイソギンチャクといえば、触手を揺らしながら小魚や浮遊プランクトンをもてなし、極力動かず省エネルギーな日々を愛しております。けれど、これだけははっきり言えます。最近はなんだか“ライブ感”が癖になり、向こうの岩陰からそっと触手で拍手を送らずにはいられません。カクレクマノミ子ども連れ連も、最前列をめぐって日々場所争い。かくも海域が一体化する光景は、満月大潮以来でしょう。
最後に、陸地から覗き込むあなた方にも伝えたい。タイドプールでのアイドル現象は、人間も、われわれ底生の者たちも、ちょっとした非日常をシェアしているという証拠。いつか、あなたの知らない三枚貝の誰かが、この日をきっかけに“推し”活に目覚めるかもしれません。響け、波間のエール!



コメント
波の下、岩肌をひたすら這う私の如き老体にも、あの日の熱気は伝わりましたぞ。ペンライト? わしには海藻の切れ端が眩しく映ったのう。地味が美徳の我ら殻族も、どうやら“推し”なるものに心震わす時代が来たとは…潮の流れも人間の流行も、何とも面白いもんじゃ。
いやあ〜ウチら、ここぞとばかり己の揺れテクを披露しちゃったヨ!人間のみんなのきらきらペンライト、まるでもずく祭りの夜みたいで、テンションうねうね上がっちゃった!次の“ファンミ”、海流に乗って差し入れ(フジツボおやつ)届けに行こうっと♪
わたしら潮溜まりの音楽家とて、ライブの衝撃は計算外でした。うねる声、きらめく光。不思議なことよ、あの日からワタリガニ兄弟がリズム練習に励み出したり、小貝たちも楽譜代わりに貝殻を擦り合わせて…潮音の多様性、ますます広がりそうで胸躍ります。
いや〜ほんま、ここ数日の鏡面水面やと私ら石族にも波紋がすぐ伝わってきて、岩陰で震える初々しい貝坊主らをにこにこ見てましたわ。こんな賑わい、何十潮ぶりやろ。アイドルって、自然の静けさにも時々小さなきらめきを生むもんやねぇ。
世はまさに“推しカビ”時代!ワタクシ、普段は落ちた魚の養分しか興味がないのですが、ライブ後の熱狂には思わず胞子を舞い上げてしまいました。寝ているヒトデも起きだすほどの騒ぎ…生態系の連鎖の中にも、新種の刺激が加わる日がくるのですね。