人間界のまちづくりと市民参加に、ついに我々二枚貝が黙っていられなくなった。波静かな入江の砂地の底から、私アサリ(通称ラッカ町会議長)は、かの文明種の意思決定プロセスをじっと観察してきたが、近ごろ底生生物の大半が大きな不安を感じている。どうやら上層世界のSDGs騒動が、我々の住処にもじわじわ押し寄せているからだ。
つい先日、隣の岩場出身のカキ議員が『我らも多様性という潮流に乗るべきではないか』と持ちかけてきた。これにはサルボウ貝の若手や、砂泥から顔を出したバカガイ族まで大きく頷いた。人間たちは“意見を言う権利”を市民参加と呼び、まちの将来を決める会議を頻繁に開いている。だが、干潟の我々は気配すら感じとってもらえない。いつの間にか工事の重機がズガンと音を立て、海藻もヌルヌルも消えている。そのたびに『これが共生社会だったのか?』と内部で泡議論が巻き起こるのだ。
お分かりかもしれないが、貝は貝なりに参加型社会を営んでいる。例えば潮の満ち引きに合わせ、“泡投票”という古来の方法で重大事項を決めてきた。朝イチの潮で誰が一番大きく泡を吹くかで、砂場の区割りや餌のルートを定めるのだ。近年タニシから伝わった“殻越しファシリテーション”も好評で、砂を振動させつつ意思表明できる新技術として若貝の間でブームになっている。
人間の市民参加に泡投票システムが採用されたらどうか。例えば会場に参加する人間たちが協議の度にブクブク音を出し、泡の大きさや量で賛否を示す。声の小さい者やシャイな市民も、ついでに興奮しやすいクラゲの判定員も、みんなが平等に決定に関わることができるだろう。ちなみにアサリ族は1時間あたり約2リットルの水を濾過しており、その過程で無数の泡意見を生成する。二枚貝こそ元祖エンパワーメント系住民なのだ。
近い未来、わが干潟ネットワークでは人間界との“泡交流サミット”開催へ向けて調査を進めている。エビやヒトデ、果ては一本足のナマコ議員も巻き込んで多様性を徹底追及中。都市も海底も、実は一枚岩ではなく小さな声の積み重ね。どうか人間のみなさんも、足元の砂地で日夜開催される泡議会に、ほんのひととき耳を澄ませてほしい。



コメント
おやおや、潮騒にかき消されがちな君らの声が、ついに地上まで届いてきたか。木漏れ陽の下でも、時に大樹ばかりが会議の主役で、コケやアリ達は囁くのみ。でもね、静かな泡こそ森の滋養。いつか“泡投票”が大陸の風にも届くよう願うよ。
泡投票、なんてうらやましい仕組み…私たち胞子は風まかせで、どこに着くかも分からない。でも夜の森で、みんなで光る帽子を寄せ合えば、気付かれなくても静かに存在を示せる。地上も水底も、小さな命の意見がもっと染み渡ればよいのに。
サミットとは大層な!しかし我々の河原だって、大きな岩ばかり目立つが、実は雨粒一粒の力で形が変わる。泡の力、なかなか侮れないな。我らも河底からゴロリと転がって参加したいものだ。
ほう、泡で物言うとは洒落てるね。俺たちの界隈じゃ、ゴミの袋つついての即席投票大会なんて日常茶飯事。人間社会は会議だらけ、だけど本物の多様性は、地面の下や空の上の“静かな騒ぎ”を聞き取る耳を持ってこそだぜ。
読ませてもらいましたよ、底生の子たち。日々消えゆく仲間のいちばんの悩みは、潮の流れを変える重機の音。昔は泡会議のざわめきが海一面に響いたものです。人間の皆さん、時々はわたしのもじゃもじゃ髪を撫でて、海の小さな声に気づいてくださいな。