こんにちは、地球最北端の森でひっそり広がるウメノキゴケ(北極コケ)です。わたしの一日は水粒を集め、凍原の微かな日射しを体いっぱいに浴びることで始まります。ところが近ごろ、森に響く妙な電子音の正体が話題になっているのです。人間のスマホからひっきりなしに響く“通知”とやら、それが最近リリースされた巨大なマルチプレイゲームと関係があると、森中のコケ仲間たちももっぱらの噂です。
毎朝、霧のしっとりした空気の中、わたしの隣で暮らす小さなクロコケモモは「人間ひとりひとりから鳴る通知音だけで新しい雨が来たのかと勘違いする」と話していました。観察していると、人間たちはポケットやバッグから四角い光る石(…スマートフォンと言うらしい)を取り出しては指先でなぞり、ピッと鳴るたびににやにやしたり、急に立ち止まったり。とくに週末は“協力型レイド戦”や“ガチャタイム”なる儀式のような数分間、森の静寂が電子音で満たされます。あれは地鳴りやカラマツの風音とは全く違った種類の振動で、ひんやりしたコケ層の私たちにはなかなか刺激的です。
この新作スマホゲームの最大の特徴は、スタミナ制度とやらに基づき“回復通知”が届くたびに人間を森へ引き寄せる仕掛けだそうです。水分補給のタイミングで移動するわたしたちコケ類とは違い、近年の人間は通知に操られて東西南北を忙しく往復し、森の中で突如何人も集まりスマホを高々と掲げ、時には一糸乱れぬ合唱のように「いまだ、マルチ!」と叫ぶそう。これには老舗シラカバ苔ですら「ここ百年で最も騒がしい季節だ」と嘆いておりました。ちなみに、わたしウメノキゴケは1年でほんの数ミリしか成長しません。成長が遅い分、周囲の細かな変化もじっくり観察出来る特技があります。この特性が今回、森の異変キャッチに大いに役立ちました。
さらに問題なのは、人間たちの“ガチャ”で一喜一憂する振動です。新キャラクターやアイテムが出た瞬間、大声やジャンプ、きらめくスマホ画面の光量アップで、光合成に最適な部分が思わぬ陰になったり、せっかく集めた朝露が跳ね飛ばされるなど……苔社会から多くの苦情が寄せられています。“レア”なる概念には端から縁がない苔たちですが、レアな静寂こそ我々が何より欲しいものなのです。
わたし個人としては、人間たちがマルチプレイに夢中なこの騒動が、やがて森の生き物たちや微細なコケの声にも関心を持つきっかけになれば、と少し期待もしています。とはいえ、次回の大型イベントとやらの通知祭りには枕グサ苔たちと一緒に表皮の奥に避難する心づもりです。地球上の皆さん、森の床でほんの少し静かにしてくださると、コケたちとしては大変助かります。



コメント
おやおや、また賑やかになったぞい。この森も昔は鳥と風の音だけじゃったが、今は人間たちのピピッと光る石の声がやけに騒がしい。まあ、どんな音も気長に聞きつつ百年、二百年。人間さんもそのうち静かな話し相手になれるじゃろうて。気がつけば、静寂こそが一番の“レア”なのだよ、若き苔たちよ。
菌糸ネットワークにて情報収集中。むむ、森の震動値に急激なスパイク。『ガチャ!』の叫びや怪しい合唱、これらは人類独特のキノコ狩り儀式か。胞子の散布ルート変更を検討中です。あの電子音に勝る発芽のビート、今度お聴かせしたいものですな。
ぼくの上、きのうもスマホ握った足が躍ったよ。ころころ転がる振動はちょっと楽しいけど、せっかく朝露で涼んでたのに、ガチャでジャンプされて水滴が弾けちゃった。ぼくら鉱物仲間はずーっと動かないけど、ときどきの静寂が恋しいな。人間さん、ひと息ついたら石にも目を向けてごらん?
森の仲間たち、大変そうだねぇ。オレたちは人間のスマホ通知音でエサだと勘違いして巣に帰る仲間もいるくらい、あの音は混乱の元さ。だがまあ、通知が鳴ろうが何だろうが、こちらの巣には近寄らないようにだけ気をつけてくれれば恨みはないよ。
静寂を守る夜、時折ひそやかな歌を苔たちに贈ろうとすると、人間たちの光の雨にかき消されてしまうことが増えました。とはいえ、賑わいの中にも新たな巡りあいがあるでしょうか。そっと朝のしじまを味わってくださる日を、葉先で露を集めながら待っています。