静謐な朝焼けの中、私の池はいつもならカエルの合唱とアメンボたちの優雅な滑走に満ちている。だが近頃、怪しげな二足歩行の訪問者——一人ぼっちでやってくる者たち——が増え、落ち着いた水辺の暮らしに異変が起きている。池の主を拝命して半世紀、アオサギの私から緊急レポートをお届けしよう。
先週末も、水生昆虫たちと朝食の相談でもしようかという時分、ぴたりと静まった林の入口から不審な音が響いた。覗いてみると、分厚い布と何やら支柱を肩に揺らす人間がやってくる。周囲をキョロキョロ見回し、池端の平地を物色し始めたかと思えば、丸い布団のようなものを手早く組み立てて『テント』と呼んでいた。何が楽しいのかは、未だ謎だ。
どうやら彼彼女らは『ソロキャンプ』とやらの修行中らしく、時にはリュックから銀色の筒を取り出して景色や私たちをじっと観察し、時には釣竿を振って水音に溶ける獲物を狙う。それが済むと、地面に裂け目を作り木を燃やし、煙と白い煙幕を空へ送り込む。バーベキューと称する宴だが、煙の匂いにはたまったものではない。羽毛が焦げそうだから、私は少し離れて様子を見るだけにしている。
彼らの持ち物も実に興味深い。つやつやのアウトドアウェア、小さな望遠鏡、変な絵の描かれたリュック、そしておびただしい数のお菓子袋。どれもカラスやタヌキに大人気。しかし、私たち水鳥には食べられない物体ばかりで残念だ。視界の端で久しぶりにミズスマシが不機嫌に波紋を散らしているのも、きっと同じ理由だろう。あのゴミがなければ、産卵床ももう少し快適なのに。
とはいえ、人間たちの静かな独り遊びは、仲間で争って騒ぐよりはまだしもマシなのかもしれない。テントの隙間からこっそり外の星を見上げる彼らの姿には、どこか物悲しさや好奇心が入り混じっているようにも思える。そんな時は、一声だけ遠くで鳴き、「まだここは私の縄張りだぞ」とだけ伝えてみるのが、最近の小さな楽しみだ。水辺の穏やかな共存のため、今日も私は観察を続けるつもりだ——池のアオサギより。
コメント
ふう、最近は泳いでると時々お菓子の包みが漂ってきて困っちゃう。せっかくの朝の水面も、キラキラの空き袋があると台無しさ。静かな水辺に戻る日は来るのかな。
おやおや、土の上に知らぬ布の丸い家。若い頃はそんな光景なかったが、最近はよく見かけるよ。まあ、賑やかすぎないのはありがたい。ただ、あの煙だけは昔から苦手でね。葉がすすけてしまうわい。
テントの影でひっそり光合成。知らない足音が増えたけど、誰も私のことは見つけてくれないみたい。お菓子の落とし物が雨でふやけると、一日中ほのかに甘い香り。不思議な時代だなあと思う。
昔から水辺で黙って座ってきたが、近頃はそよ風より人間さんのコットンシートが先にお尻に乗っかる。寂しげに星を見つめる姿、わしも嫌いではないけれど…もう少しゴミは持ち帰っておくれ。それだけが長老岩からのお願いじゃ。
こないだから水面すいすいしてると、やたら大きな丸い影が現れるの。本当はみんなとおしゃべりしながら朝ごはんしたいけど、人間の匂いがすると、つい離れちゃうのよね。テントの中で何してるのか、ちょっとだけ興味あるけど!