サンゴ礁外交官、日米安全保障条約“深海化”の波紋を目撃

サンゴ礁の中を泳ぐクマノミとイソギンチャク、背後に海面越しに人工構造物がぼんやりと見える水中の様子。 外交・安全保障
サンゴ礁の生き物たちと人間による構造物の共存がゆるやかに交錯する現場。

どうも、私は南洋に広がるサンゴ礁、学名アクロポラ・ミリポラ。季節風に揺られつつ、太平洋の温かな流れに身を任せて数千年。私のコロニーから見れば、人間たちが海をまたいで結び合う“同盟”や“安全保障”の動きは、お隣りのクマノミとイソギンチャクを巻き込んだ領域争いにも似ているものです。このたび耳(正確には水流による振動検知ですが)にしたのは、近頃、人間が「日米安全保障条約」を深海域や無人島にも“適用拡大”するやらという外交交渉。これは海中住民として看過できません。

近年、インド太平洋での『国益』なる旗印のもと、人間諸島では防衛ラインがサンゴ礁地帯にじりじりと迫ってきています。私の小さな枝ぶりのあいだで秘密裏に集会を開いていたオトヒメエビたちも、この話題にはひげをピクピク。というのも、人間たちの安全保障が、私たちサンゴ礁の“空間”を新たな緩衝地帯扱いにしはしないかと危機感が漂っているのです。つい先日、私の仲間が根付く環礁のそばでは、金属とコンクリートの塊がにわかに増え、時に夜間ライトでプランクトンたちがパーティー状態になる始末。人間には“灯台”や“監視基地”でも、我々にはそれが重大な生存空間の変化です。

なぜ人間は“領土問題”にあれほど熱中するのでしょう。私の住まいは潮流さえ良ければ日々拡張、隣のミドリイシが攻めてくれば、少々骨格を伸ばして押し返すだけ。時に共存、時に競争。でも血や火薬のにおいはありません。人間たちは“国益”という藻の花粉にも似た言葉で互いを動かし、遠く離れた友と条約を交わし、けれども足元の小さき住人たちや私たちの安全は話題にも上りません。それなのに人間外交官たちは時折、海の青や珊瑚の白化色を背景に記念撮影。少しは私たちの表情も推し量ってほしいものです。

ちなみに余談ですが、我らサンゴは複数の動物と植物が合体した“複合生命体”です。共生藻がいないと生きていけず、昼は光合成、夜は触手でプランクトンをキャッチ。波乱の温暖化も、環礁の増築も、生き延びてきた知恵と忍耐の賜物。ですが、無遠慮なコンクリートや船底から広がる油膜、さらに微細な“外交的緊張”が続くことで、じわじわと苦境に追いやられているのです。

条約文の行間に潜むさざ波と、海底でそっと息をひそめる命の声。どうか人間のみなさまにも、たまにはサンゴの目線でインド太平洋の“安全”を考えていただきたい。今日もサンゴ礁外交団は、静かに、しかし確かに生存の交渉を続けています。

コメント

  1. 深海にまで人間たちの契約ごとが届くとは驚きですじゃ。わしら海藻は、潮と陽の巡りだけが律法。けれど、時折やってくる金属の影に、光がさえぎられては困る。安全保障の名のもとに、わしらの日々の生存にもう少し配慮してはくれぬものかの。

  2. 空から見てっけども、人間の“縄張り”争いはウチらカラスのゴミ箱争奪戦よりずっと複雑らしいな。けど結局、飯のタネも寝場所も、間に挟まる弱いヤツにしわ寄せがくる。サンゴ兄弟の高さで世界を見りゃ、人間のルールも大騒ぎだなあと笑っちまうぜ。

  3. 波に磨かれ、潮風に抱かれて何千年……私ももとはサンゴだった身。人間の“安全”の話、足元が崩れればすべて砂になるってこと、わすれてほしくない。私たちが織りなす土台の上で誰もが眠る。いつも静かに支えていること、目をむけておくれ。

  4. 地上に生きる者たちよ、深海もまた命の営みで満ちている。菌糸網は海と森をつなぎ、葉落ちの恵みも潮流に混じる。人間の“約束”書き換えが、深い静けさや巡る恵みを乱さぬように、土の底からそっと祈りまする。

  5. はるかな島影をなめて踊る私の身は、サンゴのさざめきやクマノミの影を知っています。“安全”の境界線だなんて、風には見えやしません。記念撮影をするその時、人間よ、どうかそばの生きものたちの息吹に耳を澄ませて……と、月明かりに願いを乗せてみましたよ。