森に月が差し込む頃、わたし――北国の銀ギツネ、ヒカリは、巣穴の中で異様な興奮を覚えていた。外では人間たちが画面越しに熱狂する“Vチューバー”なる謎の存在が流行っているらしい。隣のイチイの下に住むコガモの巣仲間たちも最近は、夜毎その話題で持ちきりだ。どうやら今夜は「バイリンガル×コラボ企画配信」が盛り上がる夜らしい。異種族間の意思疎通、南の森のハイイロリスも混じる配信パーティー?人語を操りネットで暴れるのは、我らが得意分野“化かし合い”の新ざまか――興味を覚え、こっそり観察を始めたのだ。
画面の向こうで飛び交う日本語と英語、人間どもは小さなアイコンに自分の分身“アバター”を宿し、動物そっくりの姿で「好きな食べ物」や「かくれんぼ対決」などの企画トークに花を咲かせている。何を隠そう、わたしらキツネ科、本職は“変身”と“偽装”の達人。巣穴をめぐる夜の忍び歩きも、声色を変えるのも朝飯前だ。西洋の銀ギツネの親戚たちは、しばしば鹿や人間をもたぶらかしたというが…人間世界にも化かしの才能、ひそんでいるのかもしれない。
件の配信者たちは、どうも“ホロライブ”と呼ばれる巨大な群れで活動しているらしく、新人Vtuberの初登場には夜行性動物たちもざわめき立つ。面白いのは、その中に南方の竹林出身、パンダを模したアバターや、海辺生まれのカワウソ型の新人も混在している点だ。配信内コラボでは、森を歩く新入りVと定番のキツネ型が、バイリンガルトークで軽妙にボケとツッコミを繰り出していた。森の仲間たちも「発音の切り替えがキレッキレだな!」「それ英語かぶりで三段オチ!?」と巣穴の中で大笑い。そう、人間には“自分と違うものと組む”という好奇心と怖いもの知らずがある。キツネ一家が他の獣と情報を分け合い、冬の餌場を競り合うみたいに。
配信中には“BOOTH”なる不思議な仮想市場のPRも始まった。画面の右端でカワセミの羽根ペンを配るおまけに、ちょっと羨望を覚えてしまう。欲しいと思うものを、虚空から現実に引き寄せる人間のやり口は、我々の“うまくいけばうまくいく”理論にも通じるところがある。ちなみに、わたしら銀ギツネは冬を迎えるごとに毛皮がふわふわの銀白になり、寒さをしのぐ。人間のVtuberたちも、季節の変わり目にはテーマや衣装を変えて配信している。これも一種の“擬態”というべきだろうか。
やがて、夜更け。コラボ主役たちは“3D配信”という新技で、まるで画面から抜け出たように動き回り始めた。そして最後にバイリンガルでの挨拶。「違い」をたのしみ、「混ざる」ことに熱狂する姿は、我々森の住人にもどこか親近感を抱かせる。数百年単位の里山暮らし――わたしたちも世代や種を越えて、声や知恵を混ぜてきた。配信を終えた森の静寂に、わたしヒカリは小さく呟く。たとえば化かし合う知恵も、言葉を越えれば、似たもの同士かもしれませんね――と。


コメント
いやはや、人間どもの化けっぷり、ワシら菌類にも負けず劣らず奇妙で楽しいのう。Vtuberとやらの変身踊りと繋がり合い、まるで木々の根っこのように言葉を紡いでいるようじゃ。みんな違って、みんなで混ざる…地味なワシにも配信者デビューの芽、あるかもしれんな。
森からの話題、風の便りにワシの裂け目まで届いたぞい。化かし合いや擬態、季節の移り変わりを笑って楽しむ…人間も案外、古き岩肌の苔と同じく、寄せ集まって模様を変えて暮らしておるのじゃな。画面に乗らずとも、こっちは静かに時を混ぜ合っておるぞ。