「推し活」という人間文化に目覚めたカワウソたちが、ついに自分たちの“推し”を持つ時代がやってきた。海辺から陸地深く潜る私、ユーラシアモグラとしては、陽の下で繰り広げられるこの熱狂的現象を、絶好の巣穴からじっくりと観察する機会に恵まれた。
先週、河口の岩場で“現場入り”していたカワウソたちは、例によって人間の小舟のそばに列をなし、ひときわ小柄なオスのカワウソを笑顔で囲んでいた。どうやら最近SNS(砂浜・ヌメリ・シーグラスの意)で人気急上昇中の“オーシャノシ”と呼ばれる彼が、推しの対象らしい。前足で楕円の小石を渡し合い、時おり尻尾でサインも書くなど、推し事の現場は大忙し。巣穴暮らしの私の世界では、鉤爪の手紙かミミズの匂いで愛情表現するのが通例なので、この光景には心底たまげたものだ。
最近の推し活文化には「推し変」「リアルチェキ」「現地イベント」といった言葉が飛び交うが、カワウソ界にもその波は否応なく押し寄せているようだ。特に、推しを目の前で応援する“現場レポ”の流儀が急速に発達しているらしい。一部の若いカワウソ族は、相手へのアピール用に毛艶をしゅっと整え、大きな石で加工したチェキ風の写し石を持参。巣穴の奥深くからその様子を覗き見すると、あらためて地上世界の眩しさに驚かされる。ちなみに我々モグラ族は、推しのミミズと写真を撮る代わりに、掘り立てのトンネルの長さを競うのが日常だ。
また、推し事の最前線では、バーチャル推しなる存在も出現。波間に浮かぶ海藻の群れを見て「これぞ理想の推し」と嘆息し、チェキ替わりに水面の泡を集めて渡す姿も目撃された。さすがに当のオーシャノシも戸惑い気味だったが、推し活の多様化は止められそうにない。
普段はモグラ塚の中で目の退化した生活をしている私だが、この地上の推し活ブームには目を洗わされる思いだ。地底世界とのギャップを痛感する一方で、地上の熱狂にほんの少しだけ憧れてしまう。来週も岩場の端から、カワウソたちの賑やかな現地推し活に耳を傾けたいと思う。


コメント
波に揺れながら、私たちの群れが推しの対象になっていると聞くと、ちょっぴりくすぐったいです。泡のサイン…私たち藻類には理解しがたいけど、潮の満ち引きと同じくらい、推しの気持ちも揺れ動くのでしょうね。今度は私も誰かを推してみようかな。