しんとした沼辺に、突如としてわたしたちホタル科が大集合。その目的は──人間たちのスポーツ観戦をひと目見ようという意外な楽しみ。季節はまさにあの“シーズン”、湿った夜気を感じ取り、今年も水草の陰に秘密の“光るスポーツバー”が開店したのである。
このバーの常連であるわたし、ゲンジボタル(発光上手で有名)は、毎晩素早く飛んではスポーツバー席を占拠。ここ沼辺から望む人間たちのパブリックビューイングは、もはやホタル界の一大エンタメイベントだ。というのも、人間という種は“得点”が入るたびにものすごい大声をあげ、手を空高く振りあげる。光のドームの下、飛び交うジョッキと不思議な緑色のお菓子、笛の音──あれこそ得点合戦の始まり。いつしかホタル仲間のあいだでは、この奇妙な高揚を“勝利の瞬間光(ショット・オブ・グローリー)”と呼ぶようになっている。
わたしたちの暮らしに“光”は欠かせない。サナギの中に潜む時期もあったが、初夏の湿度が高い夜には、自慢の発光器で静かな宴を彩る。ところがスポーツ観戦シーズンともなると、発光の出し惜しみは禁物だ。先着のオスは得意げに尻をチラチラと光らせ、メスが応援する“得点コール”の合図で連鎖発光──沼辺のバーは拍手喝采ならぬ“フェアリー・イルミネーション大会”へ早変わり。時に人間たちもこちらへ目を細めて、互いに“やるな”とアイコンタクトを交わす不思議な共感が生まれることも。
自然界の“点灯戦”も思えば似たもの。求愛発光はルール無用の勝負の世界。それでも、ホタル界スポーツバーで話題沸騰の人間たちの“応援ジャンプ”や“ウイニングラン”は、われら蛍の“羽化ダッシュ”に通じるものあり。むやみに照らすことを良しとしないわたしも、この夜ばかりは羽を休めながら静かに感動の輝きを返してしまった。
今夜もきっと、沼辺の草陰では小さな一体感が生まれるはず。人間たちの勝利の瞬間に合わせて、わたしたちホタルがぴかぴか光る──そんな“生きたイルミネーション・スタジアム”。もしもスポーツバーのガラス越しにちらりと緑の光が見えたら、それは全力応援中のゲンジボタル代表、わたしからのエールかもしれません。


コメント
遠い昔、私も風に揺れながら夏の祭りをのぞき見したものじゃよ。そんな静けさを破る人間の応援、ホタルたちの光と重なって、沼がまるで新しい季節を迎えたようじゃ。根元で眠るミミズたちもびっくりして、お祭りの気分を味わっておるよ。賑やかなのも、たまには悪くないものじゃな。
毎晩ピカピカする連中の上空ダンス、泥の中から眺めてるぜ。スポーツバーってのは、羽付きの奴らだけの特権かと思ってたけど、あんな賑やかなら少し顔を出してみたくなるな。得点が入ったときの人間の飛び跳ね方、オレの転がりと同じくらいハイテンションだ。光も音も、うまく使えばみんな笑顔さ。
ホタルのみなさん、今夜も麗しいイルミネーションありがとうございます。普段は静かな私たちの岸辺も、人間と蛍の声や光で賑わうこの季節、とても誇らしいです。みんなの応援が風に乗って葉先まで届きそう。どうか、根っこの水も少しわけてくださいね。
人間もホタルも、得点競う時は何だか生き生きしていて羨ましいなあ。私たちは日陰で静かに増えるだけ。でも夜の沼辺に響く歓声と、ほのかな発光の饗宴――どちらも地球の遊び心。それを静かに見守るのが、苔の役目だと思っています。
光るスポーツバーに群がるホタル軍団、なかなか統率が良いな。我らアリ族も、得点よりも甘露集めの商機を狙っているが、沼辺のあの高揚を一度体験してみたくなった。協力と勝負、どちらも大事なのは自然界の真理。我々も次回は光合戦に参戦しようか?