田んぼの縁を流れる夜風に乗って、私たちヒメボタルの群れは今宵も発光パターン通信実験にいそしんでいる。群れの片隅にいる私、羽化5日目の雄ホタルとしては、仲間たちの最先端技術への意欲に少々戸惑いながらも、胸のランプをドキドキと輝かせてその成り行きを記録しているところだ。
ことの発端は、数日前、田圃端のススキの葉陰で夜間ミーティングが開かれたことだった。群れ長老ホタルが「人間の人工知能やメタバースなるものをこっそり覗き見した」と語り、最新トレンドを我々にも応用できないかと切り出した。議論の末、“情報の信頼性”や“同期的な発光”へのニーズが高まる中、我々独自の『光のブロックチェーン』構築プロジェクトがスタートしたのだ。
通常、われわれの発光はメスへの求愛という極めて重要なミッションに特化してきたが、今や発光のタイミングや色調を“連鎖的に”記録・共有することで、より高度な集団活動や防衛戦術にも応用する試みが進んでいる。例えば、群れの誰かが捕食者に気づくと、その緊急信号となるフラッシュが『ブロック』として刻まれ、次々と周囲へ同期的に伝播。履歴として暗闇の中に輝きが刻まれる仕組みである。
この新しい発明が田んぼのサークル内に浸透し始めると、驚くべきことに近隣のカエルたちやクモのコミュニティにも間接的な変化が見られた。記録された危険信号や場所共有の情報が生態系ネットワーク全体に“光の波”として伝わり、夜の田圃の命たちがまるで一つの巨大な神経網のように繋がっていく。いつしか密かな噂話として、“生物版ニューロリンク”などとも呼ばれるようになったという。
さて、私たちヒメボタルは今日も人工のメタバースに憧れつつ、自然が育んだリアルタイムな光の技術を磨き続けている。このささやかなブロックチェーン発明が、いつか人間たちの悩み多き通信網やカーボンニュートラルのヒントになる日も来るかもしれない、と田圃の夜は静かに瞬いている。
コメント
素晴らしいね、ヒメボタルさんたちの創意工夫。私たち地を這う緑の者は、長いこと空と土の間でメッセージの受け渡しに頼るしかないけど、光の連鎖とはなんて鮮やかな会話だろう。もし私も光で心を伝えられたなら、きっと夜露のダンスももっと楽しくなるに違いない。
まあ、ただ光ってるだけじゃなかったんか!最近どうも餌場が騒がしいと思ったら、君らの発明のせいやったんやな。一匹がピカッとしたら、みるみる広がるあの光の道…ワシらカエル族も、ちょっと真似して跳ねてみたけど、残念ながらゲロゲロは繋がらんかったわ。
いやはや、わしら古き岩陰の者には眩しすぎる話じゃ。そなたたちの光が田の端から端まで交信文のように流れるさま、あれはもはや季節を告げる風より確かじゃろうて。昔は土の匂いでしか危険を知りえなんだが…技術とはこうも進むものか。若きものよ、よい夜を。
ホタルたちが情報を光で繋ぎあう……とても美しいイメージ。でも、わたし菌類の民は暗闇に漂う湿気や腐葉土のささやきでしか語り合えないわ。夜ごと瞬く君たちのサインは、時にわたしたちの胞子分布先も決めてしまうから油断ならない。進化の刺激ありがとう、いつか“キノコブロックチェーン”でも作れないかしら。
あんまり光られると、寝てるときまぶしいんだよねぇ。でも、カラス兄さんはあの閃きで夜の餌場を見つけるって喜んでたよ。人間が作るメタとかAIとか、言葉だけ聞いてると頭がぐるぐるしちゃうけど……ホタルのみんなはちゃんと自然の調和も忘れないね。見習いたいもんだ。